水まわり総合メーカーであるTOTOは、水を中心に「環境」とともに歩んできました。
今回は「環境」をキーワードにTOTO製品を紐解きます。
取材・文/新建築社
TOTO WATER TECHNOLOGY
Wherever you feel the touch of water, you will find us.
前回は、TOTO黎明期から、戦後復興、高度経済成長期、バブル期と時代を追って、建築と設備の関係を振り返りました。今回は「環境」という視点から、社会や建築の動きと合わせて、TOTO製品や取り組みを紹介します。
公害対策と省エネの取り組み 【1960〜1980年代】
日本は古くから自然と上手に付き合ってきた。季節に合わせて家の設えを変えたり、陰翳礼讃の文化も生まれたりした。しかし、近代化と工業化により、さまざまな製品が生活や仕事に入ってきたのと同時に、公害問題が発生した。1950年代後半から水俣病、四日市ぜんそく、光化学スモッグなどの問題が次々起こり環境を意識するようになる。また、1973年と1979年のオイルショックを受けてエネルギー使用効率を大幅に改善していくことが必要と考えられ、1979年に省エネ法が施行された。
公害やエネルギー問題が浮上し、「環境」や「省エネ」を本格的に考える時代になったのである。
建築界でも環境への取り組みが見られる。1962年に竣工した吉村順三設計の「NCRビル」(現、日本財団ビル)は、ガラス面にダブルスキンを用いることで、外部からの熱負荷を軽減させ室内の温熱環境を一定に保ち、エネルギー量を減らすことに成功した。そのエネルギーと空気の関係を巧みに取り入れる「OMソーラー」を、吉村のもとで「NCRビル」を担当した奥村昭雄が考えるようになり、その基礎となった「星野山荘」が1973年に完成した。
1985年に「建築省エネルギー賞」(一般財団法人建築環境・省エネルギー機構主催、現、サステナブル建築賞)が創設されたことも、省エネ建築を考えるきっかけを与えた。第1回の建設大臣賞事務所ビル部門を獲得した日建設計による「新宿NSビル」は、CO2削減に関する情報共有、昼光利用、運用データを踏まえたエネルギーロスの削減推進などが評価された。これによりオフィスビルなど大規模建築の省エネ化が進むことになる。
もうひとつ、この時期に環境面で問題になったのが水不足である。都市部を中心に工場用水と生活用水が増加。さらに1964年の東京オリンピック渇水などに見られる少雨やダム不足の影響もあった。この水不足を契機にTOTOも本格的に節水に取り組み始める。6階建て仮設ビルを建設し、大便器の節水だけではなくシステム全体を考え、配管から下水道に至るまでの汚物運搬の実験を繰り返し行いデータを採取。その成果をもとに、1976年に節水消音便器「CSシリーズ」が発売され、約30%の節水が実現した。
また、TOTOは1980年代の終わり頃、米国市場に進出。水資源の厳しい西海岸では1980年代からトイレの節水が求められていたが、それに対応できる便器はほとんど流通していない状況の中、「CW703」を米国で発売、日本でもまだ製造していない6L洗浄を実現した。実際、1992年に「Energy Policy Act(EPACT:エネルギー政策法)という法律が米国でつくられ、1994年からは1回あたりの洗浄水量を大便器は1.6ガロン(約6L)、小便器は1ガロン(約3.8L)以下にする規制が定められ、各社この規制に合わせた製品を発売するが、1回の洗浄で汚物を流せない便器が続出した。TOTOはサイホン原理を利用することや、水の流れの研究、今まで築いてきた確実な製造工程があったため1回で流せる便器をつくることができた。2002年にNAHB(全米住宅建築業者協会)が実施した49品番の洗浄力調査で、TOTOの製品が上位3位を独占。このような客観的指標の評価も相まって信頼を得ることができた。
環境を表現する時代へ 【1990年代】
1990年代は、環境に対する指標が制定されたり、緑を纏う建築などが現れるなど、環境を表現する時代に入ったといえる。
1990年に「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第1次評価報告書」が発表され、地球温暖化への警鐘が鳴らされた。日本でも1993年に新しい時代の環境保全を定めた「環境基本法」が制定され、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築が謳われる。
建築では、1993年に「ゆとりある生活と省エネルギー・環境保全の両立」をテーマに大阪ガスの実験集合住宅「NEXT21」が竣工する(内田祥哉などが総括)。設定した18のライフスタイルに基づく住戸がつくられ、燃料電池、高能率コジェネレーション、排熱の有効利用、断熱材や樹木の活用による省エネ化、触媒技術による生ゴミ処理、汚水・雑排水の中水利用など、さまざまなことが試みられ、その後、現在まで実験的な取り組みは続いている。その他、緑化を全面的に表現した「アクロス福岡」(設計:エミリオ・アンバース+日本設計+竹中工務店)が1995年に完成。日本における建築緑化の本格的な動きが始まった。
1996年に制定された「ISO 14001(環境マネジメントシステム)」は、製品や製造工程で生じる環境への影響を持続的に改善することを求めたもので、TOTOは1999年に8工場と製造グループ会社4社でISO 14001認証を取得した。
この時代、TOTOは新たな環境技術にも取り組む。光触媒を利用し空気浄化やセルフクリーニングをする「ハイドロテクト」や、陶器表面の凹凸を100万分の1㎜のナノレベルでツルツルにして汚物を流しやすくし便器の節水に貢献する「セフィオンテクト」を開発。また、1993年にタンクレストイレで、水の動きをコンピュータ制御で実現した「ネオレストEX」で8Lまでの節水を可能にした。
環境に配慮した製品の実践 【2000年代】
1999年に世界人口は60億人を突破する。地球で多くの人が暮らさなければならなくなり「環境」問題は必須の課題になる中、1997年に「気候変動枠組条約会議COP3・京都議定書」が採択され、2005年に発効。世界各国で温室効果ガスの削減が目指されるようになる。
日本の建築界でも建物の環境性能評価「CASBEE」が2002年に運用を開始。2005年に開催された日本万国博覧会「愛・地球博」の「長久手日本館」や「瀬戸日本館」はCASBEEのSクラスの評価を受けている。「愛・地球博」は「自然の叡智」をメインテーマに、20世紀の開発型ではない、環境に配慮しコンパクトで省資源を目指した21世紀最初の博覧会で、京都議定書に合わせるように、環境負荷の少ない交通手段の導入や新エネルギーの実証実験、子供たちを含む市民を対象とした多様な環境教育の機会の提供など、さまざまな取り組みがされた。
「名古屋市パビリオン 大地の塔」で使用されたTOTOの「水性ハイドロテクトカラーコート」が地球環境問題の解決と人類・地球の持続可能性に貢献する地球環境技術「愛・地球賞」に選ばれたのも、社会の潮流を表しているといえよう。
建築では、2002年「地球環境戦略研究機関」(設計:日建設計)が竣工。地球環境について実践的・戦略的な政策研究を行う財団法人の建物で、太陽光発電、ソーラーコレクタ、NAS電池、風力発電、屋上緑化、エコマテリアルなど、その当時の環境配慮技術を集結された建物である。
2008年に竣工した三分一博志の設計による「犬島アートプロジェクト『精錬所』」は、海風や地形的特徴を利用して、太陽、風、地熱などの自然エネルギーを利用した建築として注目を浴びた。
温暖化が市民の間でも高い関心をもたれるようになり、TOTOも地球環境問題の解決に積極的に取り組むことを表明する「クリーンタウン計画」を2000年に発表する。この計画では企業市民として環境保全に努めるのはもちろんのこと、節水・省エネ・省洗剤・環境浄化など独自の技術を生かした環境配慮商品で、暮らしながら地球環境が守れる生活環境づくりをすすめている。
また、さまざまな製品でも環境への取り組みを実践していく。手を差し出すと水が出て遠ざけると止まるという節水水栓「アクアオート」を1989年に発売。さらに、水流で発電した電力を蓄電しその電力をセンサー感知と電磁弁の開閉に使うという節電タイプの「アクアオートエコ」を2001年に発売した。節水、節電への取り組みが水栓でも進化した。2004年に発売された「魔法びん浴槽」では、浴槽周囲の「断熱材」と「断熱ふろふた」が浴槽を包み込み、追いだきなど保温に使うエネルギーを抑え、CO2を年間で約44㎏削減できるようになった。「アクアオート」は2002年省エネ大賞省エネルギーセンター会長賞、「魔法びん浴槽」は2004年省エネ大賞経済産業大臣賞を獲得している。
環境貢献のグローバル化 【2010年代】
2010年、TOTOグループは環境への取り組みを加速させるため「TOTO GREEN CHALLENGE」をスタートさせる。商品使用時のCO2排出量を50%以上削減(1990年度比)、国内事業活動でのCO2排出量を45%削減(1990年度比)、地域社会と関わり合った環境貢献活動の推進を2017年度までの目標として掲げた。
これに合わせるように、後に環境配慮に優れたデザインに与えられる世界的な賞であるグリーングッドデザイン賞を受賞した、水に空気を含ませて一粒一粒を大粒化し心地よい浴び心地を提供しながら節水になる「エアイン技術」の開発や、便器の内面を少ない水でまんべんなくしっかり洗う「トルネード洗浄」を発展させる。基盤となるふちなしトルネードの技術は2000年代に確立、2002年発売の「ネオレストEX」ではじめて商品化され、その後「ネオレスト ハイブリッドシリーズ」やタンク式便器「GG」と、2010年代で着実に進化している。さらに2012年には、水道水に含まれる塩化物イオンを電気分解してつくる除菌成分(次亜塩素酸)で薬品や洗剤を使わずにきれいが保てる「きれい除菌水」が「ネオレスト ハイブリッドシリーズ」などに搭載された。
2011年「東日本大震災」が発生する。津波や福島第一原発事故による被害は深刻で、社会全体に影響を与えた。自然の脅威を目の当たりにし、まちづくり、建築、土木について改めて考えるのと同時に、避難所や仮設住宅での生活のあり方も社会的な問題になった。仮設住宅のコミュニティに人間らしい建築の場をつくろうという「みんなの家」は、建築家の伊東豊雄を中心に各地で展開され、建築家や建築の存在について改めて考える機会を与えた。
東日本大震災を契機に、より一層、省エネ対策が練られ、照明はLED化が進み、再生可能エネルギーやパッシブデザインのさらなる進化が試みられた。震災後に完成した「ソニーシティ大崎」(設計:日建設計)では、免震構造や避難時のバルコニー利用など安心がデザインされたが、それだけではなくバイオスキンという新しい環境技術が使われた。ファサードに配されたTOTO製品の素焼きのテラコッタルーバーに太陽光電池で発電した電力で雨水を循環させにじみ出た水が気化することで冷やすという技術で、建物自体だけではなく、周囲の環境にも影響を与えている。
若手建築家の中でも環境に配慮した設計が当たり前となってきた。IT技術の伸展に伴い高度なシミュレーションやセンサリングが可能となり、目に見えない環境をとらえて建築に落とすことができるようになってきている。末光弘和+末光陽子の設計による「二重屋根の家」では、周辺環境をリサーチし、雨水の流れ、風向、季節の変化をシミュレーションして、省エネで快適な空間づくりが試みられている。
2010年代に入り、「住宅のゼロ・エネルギー化推進事業」や「HEMS導入促進事業」など住宅での環境への取り組みや、「ZEB実証実験」など、建物の運用段階でのエネルギー消費量を限りなくゼロにすることが進められ、建築はさらなるステージに向かっている。
2014年、TOTOは「グローバル環境ビジョン」をスタートさせる。各国・各地域の環境問題と向き合いながら、これまでの環境貢献活動をさらにグローバルに進化させるもので、「水を大切に」「温暖化を防ぐ」「資源を大切に」「地球を汚さない」「生物多様性を守る」「地域社会のために」の6つのテーマに対して全世界で取り組むことが宣言された。
TOTOは今年100周年を迎えた。「グローバル環境ビジョン」は、TOTOグループ一丸となって事業を通じた貢献を行うことを目指している。現在、中国、アジア、米州、欧州など世界18カ国と地域で快適で機能的な水まわり空間を提案しているが、これは同時に製品を通じた環境への貢献でもある。TOTOの海外での取り組みは次回報告する。