Otemachi Financial City Grand Cube
「防災都市づくり」の拠点となる最先端オフィスビル
取材・文/大山直美
写真/川辺明伸(ポートレートを除く)
2016年4月、三菱地所が進めてきた丸の内再構築の一環である大手町連鎖型都市再生プロジェクト第3次事業「大手町フィナンシャルシティ グランキューブ 及び 宿泊施設棟」が竣工した。そのうち、前回(『TOTO通信』17年新春号)取り上げた宿泊施設棟「星のや東京」に続き、今回はオフィス棟「グランキューブ」を取材した。
大手町地区には金融、マスコミ、商社、情報通信などの自社ビルが多い。そのため、老朽化したビルを建て替えるには、通常、一時的に別の場所に本社機能を移し、新しいビルが完成したらまた元の場所に戻るという2度の移転を余儀なくされる。「その煩わしさを軽減するため、官民連携で考え出されたのが連鎖型、つまり『玉突き』方式の建て替えでした」と、三菱地所の小野尾博さんは語る。
もともと同地区の一画には、国の合同庁舎跡の広大な空地があった。この跡地を活用し、まずここに近隣で建て替え時期を迎えた企業・団体が新しいビルを建設し、完成後に移転。次に、旧ビル群を解体してできた第2の空地に、また別の企業群が本社ビルを建てて移る。このように、各企業・団体が順に、少しずれた位置に新社屋を構えていけば、引っ越しが1度ですむわけだ。
こうして生まれた第3の空地が今回の敷地であり、新たに建設されたオフィス棟はこれまでとは違い、三菱地所が建築主であるテナントビル。1辺約80m、31階建ての大規模建築であることから、ボリュームによる周辺への圧迫感をやわらげるため、高さも配置も少しずつずらし、4つのビルを寄せ集めたような外観デザインを採用。「グランキ
ューブ」という命名はここから来ている。
災害時にも機能する防災オフィス
ほぼ満室稼動でスタートしたという、最先端オフィスのハイスペックぶりにはうならされる。まず、1フロアあたりの賃貸面積は大手町地区最大級の約1300坪。アウトフレーム工法とダブルスキンの内側に柱型を納めることで、無柱で整形の大空間を実現した。
とくに注力したのが、災害時にも企業が業務を停止せず、継続させるBCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)対応。このビルはガスと重油に対応する3台の大型非常用発電機に加え、飲用水を供給する井戸やトイレなどの汚水の浄化施設も完備しており、災害時にも電気ばかりか、空調、水道、トイレが一定期間使えるのだ。たまたま浄化した水を放流できる日本橋川に隣接していたという地の利が幸いしたとはいえ、非常用発電機や井戸水までは備えたビルはあっても、トイレの浄化機能までを備えたビルはまだ珍しい。入居したテナントに金融機関や証券会社が多いのも、こうしたBCP機能に対する評価の表れではないかと小野尾さんは言う。
さらに、災害時に周辺地区の帰宅困難者を受け入れる、一時滞在施設や備蓄倉庫も確保するなど、地域の防災にも寄与している。
ちなみに、敷地内で掘削した天然温泉を「星のや東京」やビル内のスパの浴場に引いたことが話題を呼んだが、小野尾さんによれば、この「大手町温泉」も元はといえば、隣接するビルに入居する医療施設が災害時には救護活動の拠点となることを想定し、現場で働く医療従事者などに開放することを目的に開発されたものだそうだ。「このビルの計画途中で3.11が起こったため、それを契機に、防災に力を入れていこうという方向に舵を切ることになりました」と小野尾さんは振り返る。
こうした「高度防災都市づくりへの取り組み」だけでなく、国際水準の宿泊施設を備えるといった「国際競争力の強化への寄与」、地域に開かれた駐輪場の整備などの「都市基盤の構築」、以上の3本柱を掲げた都市再生への取り組みにより、東京都から貢献の度合いに応じた容積率の緩和が認められている。
「光壁」と内照式サインでトイレへと誘導する
今回見学した水まわりは、オフィス基準階と、1階の商業エリアのトイレの2カ所。
プランを見るとわかるとおり、エレベータホールやトイレがまとまった基準階の共用部は、4周をロの字型のオフィススペースに囲まれており、開口部はない。その代わりに設けられたのが、ビルの中ほどを縦に貫く「エコボイド」と名づけた吹抜け空間だ。「自然光が感じられることで、コアをできるだけ息がつまらない空間にしたいと考えました。それと、じつは災害時にも、外周のダブルスキンを通じて入った外気がエコボイドの煙突効果によって屋外に排出されるという、自然換気装置の役割も担っています」と語るのは、設計にあたった三菱地所設計の伊藤夏希さん。
また、トイレのプランが非常に細長い形状なのは、各フロアの同じ位置にある同じ大きさのスペースを、エレベータホールとトイレのいずれかにあてているからだという。つまり、エレベータが停止しない階ではホールは不要なので、そこにトイレを納めているのだ。エレベータは5系列あるため、階ごとにトイレの位置も異なることになる。
実際に見ると、奥に長い空間の居心地を少しでも向上させるため、さまざまな工夫が凝らされていることがわかる。たとえば、入口に至る通路の奥の壁には内照式のシャープなサインがある。入口が奥まっていても廊下から視認しやすいよう、新たにデザインを起こしたものだ。また、ブースがずらりと並んだトイレ内の通路の突き当たりにも、照明を仕込んだ「光壁」を設置。「なるべく、手前に比べて奥のブースに行くことに抵抗がないようにしたかった。デザインはエレベータホールの壁面と連動させています」と伊藤さん。さらに、凹凸があるタイルをパウダーコーナーやブース内の壁面に採用することで、陰影のある空間を演出している。
一方、クールな印象のオフィスのトイレと比べると、商業施設のトイレは茶色を基調にしたあたたかな雰囲気。伊藤さんいわく「地下がメインの商業ゾーンは地層をイメージして、石と木とタイルを使って、積層感やあたたかみを出しました。トイレの内装も基本的にはそれに合わせています」。
確かに、パウダーコーナーや多機能トイレのボーダータイル貼りの壁面は地層のイメージそのもの。限られた空間で洗面カウンターが重たい印象にならぬよう、ベッセル型の洗面ボウルを用い、カウンターの足元もあけるなど、造作部分を極力コンパクトにして、家具のように軽く見せることを意識したという。
官民連携のもと進められてきた、玉突き方式の建て替えは今後も続いていく。第4次事業として東京駅日本橋口前の常盤橋街区で進行中の再開発プロジェクトが完了するのは、2027年の予定。10年後の東京駅界隈は、どんな街へと変貌を遂げているのだろうか。
Onoo Hiroshi
三菱地所
丸の内開発部
主事
Ito Natsuki
三菱地所設計
都市開発マネジメント部
副主事