
- 市川 実際に実験をやってみて、実現の可能性としてはどうなんでしょう。大量のストックを生かしていく手法になりえるでしょうか。
- 渡辺 最初に、時代が変わって建て替えが難しくなったといいましたが、耐震性や棟配置の問題で、建て替えないといけないものも当然あります。できるだけ手を入れずに内部のリニューアル程度で残していくものもあるでしょう。そういうなかで軀体をある程度いじる形で住棟をリニューアルするという選択肢になると考えています。今まではひとつの団地を建て替えるとなると、全部壊して建て直していましたが、これからは一部建て替えるけど一部は残すようなメニューにしていくのかな、と。
賃貸住宅を経営していくためには、当然コストも考えないといけないわけですが、今回試したなかでコストパフォーマンスのいいもの、悪いものいろいろあります。いいものは場所によっては使える。たとえば1階の低床化だけをやるというような使い方もあると思います。つまり、小規模なリニューアルと建て替えのほかに、もう少し手を加えるというメニューが増え、そのなかでもエレベータをつけるとか1階を低床化するとか選択肢が増えることになるということです。 - 市川 コストパフォーマンスで、低床化はいけそうだということですが、ほかには?
- 渡辺 横に壁を抜く、つまり水平の2住戸をつなげるのは比較的安くできることがわかりました。梁成の縮小も、それだけなら意外とコストはかからない。ただ、実際には梁成だけ小さくして後はそのまま、ということはありえない話で、内装もやりなおす必要があって、じつはそちらのほうが高いんです。
- 大内 施工した立場から見ても、1階の低床化は一番可能性があると思います。1階は床が木軸で組んであるので大がかりな機械もいりませんし、法的な制約も少ない。それほど大きくいじらずに、比較的大きな成果が期待できます。
ですから、1階を低床化してバリアフリーに対応できるようにし、2階から上は小規模なリニューアルという選択もあっていいのではないでしょうか。もともと、建物の北側とか温熱環境があまりよくない状態でしたから、全体にそのあたりをきちんとしてあげればかなり変わってくると思います。 - 伊村 デザイン的にも、1階が特徴的な表情をもつようになると、イメージが大きく変わりますからね。
- 大内 それから、B棟では1階の2部屋をコンバージョンして集会所をつくっていますが、同じような形で公共的な施設とかコンビニを入れるとかする、という手もあるのではないかと思います。それだけでも団地全体の魅力づけになるでしょうし、今回試した技術を部分的に使っていくことで、かなり違った住環境をつくり出していけるのではないでしょうか。
- 市川 部分的に使っても、かなり変えることができるということであれば可能性は広がりますね。
- 渡辺 UR都市機構のストックは76万戸ですが、同じようなものとして公営の住宅がありますね、都営や県営、市営の団地です。これらを加えると、本当に膨大な数になります。もちろん分譲マンションなどにも使えるでしょうし、広がる可能性をもった技術だと思います。
- 大内 大きな会社の社宅なども、同じようなプランでつくられたものが多いですよ。
- 市川 社宅などはとくに、壊して建て替えるなんて昨今はできないでしょうから、有効でしょう。
- 大内 そうですね。そういう意味で、対象になる建物が全国にどれだけあるかを考えると、非常に規模の大きな話になると思います。
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