特集/座談会+ケーススタディ

既存建物は十分な耐震性を備えているか

市川 3月に東日本大震災があり、建物の耐震性は公団住宅でも注目されていると思います。既存建物は1981年の新耐震基準のはるか以前の建築ですが、そもそもの耐震性は十分といえるんでしょうか。
内藤 コンクリートのコア試験なども適宜行っていますが、当時の基準の通称150キロ、165キロで打たれたコンクリートでも、実際には通称18ニュートンのものに匹敵する強度が出ているなど、古い建物でもそうとう強いという結果は出ています。
渡辺 関西にも相当数のUR住宅がありますが、阪神・淡路大震災のとき、壁式構造のものはほとんど無傷でした。ラーメン構造で、駐車場になっている1階部分の柱が座屈したものなどは数件ありましたが、壁式のものはほとんど問題なかったんです。
大内 低層の壁式構造というのは地震に強いんですね。とくに公団の建物は、同じ形が繰り返していてバランスがいい。壁式構造の耐震診断は難しいんですが、数値だけでは表せない強さがあると思います。
市川 今回の実験で、バルコニー側に柱を増設している部分がありますが、あれは耐震補強の意味はないんですか。構造的に十分なケアをして確認申請を通すような道はないのかどうか。
大内 増設の柱は構造補強ではありますが、内部軀体の撤去など損失分を補う意味で施されたものです。確認申請については、コンクリートの強度などの問題で既存不適格になるわけですから、増設分が構造的にいくら有効でも基準法上の解決にはならないんです。逆に、それなら増設分だけで建物全体をもたせるようにしないといけない、というような不合理な話になってしまう。今のまま、構造を大きくいじらなければ問題はないけれども、いじるのであれば軀体そのものを現行法に合うようにしなければならない、ということです。
市川 木下さんは高島平団地で耐震補強にかかわられていますが。
木下 高島平は耐震改修で、もとの構造はいじっていませんから、そういう問題はありませんでした。部分的に建物の横にブレースを入れたフレームをつくって、それを建物本体と一体化させてがっちり固めるという手法で、純粋に耐震補強ということで行っています(写真参照)。
大内 そもそもひばりが丘のこの建物の耐震診断をしても、NGにはならないと思います。
市川 外廊下の増設はプラン的にも非常に有効だと思いますが、あれも構造的に大きくいじったことになるんでしょうか。
大内 今回は実験ということで、軀体から削り出した鉄筋と溶接したり、後施工アンカーでつないだりして既存の軀体とつなげているので、大きく改造したと判断されるんですね。独立柱で構成して、エキスパンションでつなぐ、つまり増築申請で、元の構造とは縁のない形でやれば可能だと思います。


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