特集/インタビュー③

「near house」この街の肌理の細かさから

―― この「near house」では、ふたりの方法論はどう適用されましたか。
真宏 この家を考えるのに、ふたつのアプローチをとっています。ひとつは空間の構成からです。小さいボリュームと大きいボリュームを設け、あいだに中庭を挟むという基本的な構成です。旗竿敷地の建ぺい率を有効利用することと、建て主の職業と生活を読むことから生まれた発想です。旗と竿での分棟ですね。もうひとつは、この街の肌理の細かさからのアプローチです。たとえば土地割りや住宅のサイズを俯瞰してみると、ほかの地域に比べて小さく、住宅同士が密接しています。設計にあたって現地を訪れると、隣の家やアパートは近い距離にあり、それらの外形よりも外壁や瓦といった物の肌理が目に入ってくるということに気づきました。それで、肌理の配分を主題としてつくるほうがうまくいくのではないかと。肌理を感じさせるには、なるべく細かいモジュールとして、いろいろなものが近くなるような建築をつくってあげればいいと思ったのが出発点です。結果的に柱梁架構を450㎜ピッチで反復させています。
―― 分棟にして、視線が行き交うようにしたのは新鮮ですね。
真宏 視線を引き延ばすことで、中庭も内側のようにしたいという意識がありました。
麻魚 自分が入っている建物を外から見られるというのはおもしろいものです。電車の端のほうに乗っていて、大きくカーブするときに自分の乗っている電車の外側が見えてくるとワクワクしますよね。そうした経験が建物ではほとんどなくて、中に入ってしまうとどこにいてもあまり変わらない。それができると訴えるものができますね。
―― 隣の家に面する大開口の景色がいいのですが、いずれこの借景はなくなるかもしれませんね。
真宏 そうですね。取り壊されて新しく大きなボリュームが建てられる可能性もあります。東京では、都市の状況は固まらずつねに一時的なものです。都心では定常的に条件のよい敷地はめったに出てきませんが、アクシデンタルなよい状況というものはある。それをいかに生かせるかが重要だと思います。もちろん、竣工時にしか成立しない家ではいけません。この家では隣の状況が変わったとしても、中庭によって定常的な居住環境の質を担保しています。都心部の住宅ではアクシデントのようなメリットも積極的に受け入れることで、幸せな暮らしを実現したいと考えています。
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