特集/インタビュー③

自然科学の合理性が構成と出合うところに

―― なるほど。ただ、今の話からは自分たちの感性に寄りかかる危うさを感じます。
真宏 そうですね。感性の世界にいくと説明が不可能な領域に入ってしまう危うさはあると思います。ただ、物性の世界での合理性というとき、それは自然科学の言語で説明できることなのですね。何かを設計するときに工法や構造などの合理性を背景にもっていれば、感性の世界も扱えるなと思いました。最初の「XXXX house」(2003/『TOTO通信』2010年春号)のときに、合理的な工法を含めた自然科学の言説を身につけることができたと思います。この「near house」でも、素材や構成をそれぞれ考える一方で、つくりやすさや構造の明快さ、健全さから建築の形式を選んでいるわけです。空間を構成するという概念で建築を扱うことと、自然科学を背景とした合理性で物性や場を考えるという両方が合わさったところに、僕たちの建築の方法論があると思います。
麻魚 技術的な蓄積があるからこそできる案もあります。この住宅でも見積もり前に、集成材をつくる業者に相談し、強度や構造形式を確認しました。形や構造、素材はつねに同時に考えています。私たちの設計のプロセスはリニアではないので説明しづらいんです。
真宏 すべてがうまくはまる瞬間を待つ、という感覚ですね。
―― 一つひとつの建物は結果として作風が異なるように見えますが、ベースは共通しているわけですね。
真宏 自分で自分の作家性を規定するのはどこかおかしいと思っています。毎回異なる状況に決まったスタイルを持ち込むのは不自然です。建築家の役割は複雑な状況を合理化し抽象化することだと思います。そうして最適なものを見つける瞬間が、じつは最も楽しい。そこと付き合うのをやめてしまったら建築家の職能はだいぶ失われてしまう気がします。
麻魚 最後に出来上がったものから、私たちのフレーバーが感じられればいいなと思います。最初からフレーバーがこれです、と押し出すのではなく。
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