特集/インタビュー②

「LOVE HOUSE」建築の内と外の実践

―― 屋内でも屋外でもあるような空間の自邸では、それを建築としてどこまで縮小できるかを試みているのですか。
保坂 敷地のまわりには、北側の道路を除く三方にそれぞれ2階建ての住宅が立っていました。いかにも残余空間のようで、敷地に立っていてもいいイメージがわいてこないので、敷地からは離れて「あの土地に何があったのだろうか」と思い出すように計画していきました。その頃、たまたま聖書の創世記を読んでいて、神が天地を創造していった話がありました。1日ごとに光、空・地・海、植物、太陽・月・星、動物、人間、と整えていく記述です。そこで気づいたのは、わずか10坪の敷地にも地球上に与えられた自然の要素はほとんど揃っている、ということです。それらの要素をこれから設計する建物で豊かに出せるはずだ、ということから発想しました。ちなみに動物として今はウサギを飼っています。階段と庭のあいだの細い隙間は、小動物が通る道として計画しました。
 計画では、それぞれの要素をできる限り排除せずに統合できないかと考えました。樹木や動物には、それぞれのスペースが必要です。一方、敷地の面積は33.16㎡、建ぺい率60%で建築面積は18.96㎡。計画した住宅は、階段部分の庇を鉛直投影した面積で最大となっています。おのずと寸法はシビアになっていくのですね。たとえば、1階玄関と寝室をつなぐ廊下の幅は480㎜です。廊下の両側には収納をできる限りとり、開き方も工夫しています。洗面所もほしかったのですが、洗濯物を干す階段外側のラックと天秤に掛けることになり、洗面器はあきらめました。この自邸の設計で、住宅でのスケールの限界というものがわかったように思います。
―― 約5年間のここでの暮らしはどうでしょう。
保坂 私たち夫婦の二人暮らしなのですが、自分たちが建物に順応したようです。新たに物はあまり買わなくなりました。妻もこの家に来るときには40足の靴を所有していて、それらの靴はすべて収納できるように設計しましたが、今ではその棚にウサギのえさなどが入っています(笑)。妻は「玄関を入った瞬間に見える月の光がとてもきれいで、毎日帰ってくるのが楽しい」と言ってくれています。
 2階のガラス引き戸は夜も冬も台風のときも開け放しです。ダイニングには、電気照明を付けていません。とても小さな家なので、天井埋め込みのダウンライトひとつがあるだけでも空間に対する影響が強いからです。計画中に考えあぐねていたところ、出合ったのがキャンドルホルダーでした。青山で食事をした後に立ち寄った骨董店で、スペインの修道院で使っていたというものを見つけました。根元で左右に動くように、パーツを自分で購入して壁に取り付けています。とはいえ、本を読むときには裸電球をぶら下げますし、電気照明はキッチンや庭、トイレなどにあるので、それらの照明をつけているとこのダイニングにも光は適度にまわってきます。
―― この家で気になったのは、まわりに対しては閉鎖的な顔をしていることですが。
保坂 自分も設計するときには「住宅が閉鎖的な顔をしているのはよくない」と思い、じつは当初、北側に横長の窓を設けていました。道路側のキッチンのシンクがある位置です。風が通り、道路の様子も見えるのでいいと思っていたのですが、現場で取り付けられた窓を見ていると、どうもしっくりとこない。窓がなくても成立はするので、ふさいでしまいました。平日は朝に出勤し深夜に帰ってくる生活で留守にしている時間が長く、窓があるとかえって防犯上よくないとも考えました。確かに、まわりは古い建物が多く、住民はお年寄りも多いので、違和感をもたれないかと思いました。でも、暮らしてみるとまったく問題はありません。というのも、自分たちがいるときには玄関扉を開け放していることが多いのですね。それだけで近所の人との交流は自然に生まれています。
  • 前へ
  • 2/3
  • →
  • Drawing
  • Profile
  • Data

TOTO通信WEB版が新しくなりました
リニューアルページはこちら