特集/インタビュー①

「ドリフト」浅い奥行きをずらしてつなぐという合理性

―― 「ドリフト」は2005年竣工ですが、ある意味で、吉村さんの原点的な建物ではないかと考えてお話をうかがいます。
吉村 当時は私以外に弟と妻の3人の協働で設計していたので、今も同じスタンスをとっているかというと微妙なのですが、さまざまなプロジェクトのきっかけにはなっている住宅です。1300坪という敷地に建てるとても大きな住宅だったので、真四角につくると中央のほうが暗くなりますから、奥行きを浅くした細長い形状としました。もうひとつの理由は、田舎での暮らしを選んだ建て主が、京都の山奥にある村の社会に突然入っていくことになりますから、よそ者として扱われないために、室内のどこで何をしているかがなるべく外から見えるほうがよいだろうと。ただ、細長いことで生まれる強い方向性は山合いの農村の風景にそぐわない。それで、山道の蛇行に合わせ、もとからある小さな道や段差にすり寄るように折り畳むようにつくりました。建物のボリュームはアクセスする道の延長です。1本道から入ってきて、右へ左へと行きながらだんだんと気積の小さな部屋に行き、最後は浴室に至ります。壁量が増えてコストが上がる欠点と、それによって得られる利点を検討した結果です。
 地形などに対して微妙に反応できるようにと、木造のモジュールは910㎜でなく600㎜のグリッドにしています。今振り返ると気にしすぎたところがあり、うまくいっているところも、そうでないところもあります(笑)。大工は苦労していましたし、屋根の鋼板葺きでも折り曲げのピッチが合わずに、立てハゼをつくる新たな機械を業者に購入してもらってつくるなどしました。
―― 部屋をずらしてつなげるというのは、設計当時はとくに新しいルールでしたね。
吉村 それぞれの部屋のあいだから界壁を取り去って廊下をなくし、開け放しながらまとまりを維持するようにしました。どの部屋も用途はあまりはっきりとは決まっていません。天井の高さやプロポーションに合わせて小梁の間隔や床の仕上げを変えたり、少しずつキャラクターや質が異なる部屋が並んでいます。部屋がずっと連続しているのでもなく、どちらの部屋ともとれるあいまいなものがつながっている感じです。音楽でいえば通奏低音のようなものが鳴っていて、そのうえでメロディが変わっていくというイメージです。
 外壁は横張りにしてリブを付けたのですが、やはり分節しながらひとつの建築に見えることを目指したものです。モダンな思考と、そうでない思考の両方から出てきたものだと思います。
―― 距離感の拡大など、視線の操作を強く感じます。
吉村  そうですね。ずれながら、何カ所かは視線が通るようにしています。また、窓から建物を見返すところを設けるなど、視線は意識してつくっています。周辺に対してどれほど開けるか、閉じるかはどのケースでも重要で、場合によっては、閉塞感を解消するためにまわりの人を招くことで対応できるかということも考えます。「ドリフト」では、道路の延長で「いつのまにか室内」と感じられるように設計しましたが、近くで行われるお祭りのときには、地元の人に開放されているようです。
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