特集1/インタビュー

 床は幅広の檜材。彼女が床を蹴って跳ぶと、太鼓を叩くようなあざやかな「ポーン」「ポーン」という音が外に漏れてくる。床下には3つの穴が坪状に掘られ、内部は鏝仕上げ。能舞台の床下の壺と同じ効果が引き出されている。もしかしたらこの小屋自体が楽器であったのかもしれない。
 外観もシンプルそのもの。四角の箱、やわらかな曲線の屋根。土の壁には丹後の湿気がびっしりと苔を育てている。苔の上に光る水玉。
 適正な技法、適正な設計から生まれたあざやかな小屋。内部も、外部も美しい。勝手ながらその美しさは目的への適正なアプローチの結果生まれた余禄とでもいえるだろうか。
 このプリミティブな、しかし完成された美しい小屋は、建てられたその瞬間から時々刻々、時間の変化を刻んでいる。訪れたとき静かに春の小雨が降っていた。弱い日差しと小雨が交互に現れては消えていく。土壁に生えた苔の上の水滴は雨に当たって消えては生まれる。自然の移り変わる表情を拾っている。そしてこの湿気は人影が消えたときゆっくりとした破壊の時間を進めていく。
 あのとき鈴木さんが語っていた。「1年間、ドイツに招待されているから、帰ってくる頃には土に帰っているでしょう」。消えることを期待して行われた建築行為。人を引きつけるのは、そのはかなさも関係しているかもしれない。
 あれから10年はたつ。電話で久しぶりに話した。「小屋はすでに土に帰りました」と。エコロジカルな視点からいえばこの小屋は有機的な活動の果てに、自然に戻った。
 鈴木さんはあらためて自分が住むための家の建築を進めているという。人が捨てた廃材を使っているので「遅々として進まない」とも。目的が暮らすという多目的な家の完成はスピーディにはいかないものらしい。短期間のエネルギー集約で建ちあげられ、軽々と記憶の彼方へ消える。小屋はその流れがあって美しいのかもしれない。

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