特集1/インタビュー

Part 4

ずらして見通す“居場所”「原野の回廊」2006

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―― 「原野の回廊」のお話をお願いします。
五十嵐 こういう広大なロケーションは、北海道にいてもそんなにありません。以前の「風の輪」(写真C)では、リニアに平面を延ばして、その内部にどういうワンルームをつくるかと考えました。つまり、まっすぐな空間の中に、何かを挟んで居場所があるというものです。ここでは、居場所そのものがずれて重なっていったらどうなるだろうか、というところからスタートしています。
 ずれることで淀みができるので、その淀みに収納とかソファやテレビを置くスペースをつくっていく。ちょっと見えたり、ちょっと見えなかったりという居場所をつくって、それがつながっていくことで、ゆるやかにワンルームが成立するというようなやり方なんです。それぞれの部屋は最小限の単位でつくられています。
 天井高は、まず一番手前の箱は客間で、ここは地べたに座ることが多いから、そのプロポーションで考えると最小限で2.2mくらいあればいい。次に玄関は、お客さんを迎え入れる部屋なので多少高めにとる。応接室は趣味の部屋で、大量のレコードを収納するからさらに高くする。リビングは12畳くらいですが、ほかの部屋に比べると大きいので、それに対応したプロポーションにする。ダイニングは、その次のキッチンが2階に寝室をもつので、そのつながりを考えてかなり天井を高くする。そんな流れでつくりました。
 また奥にいくほど土地が下がっていたので、基礎をまず打って、根掘り作業をなくしています。道路側のレベルと奥のレベルを階段状につなぐ構成はそこからきていて、床は最小限に10cmずつ下がっていきます。視線の抜けとしては、レベルが下がっていくと、物理的な直線距離よりも当然長く見えるわけです。仕上げの素材は、お施主さんから真っ白は避けたいというリクエストがあったので、それでは、箱ごとにいろんな素材を使いましょうということになりました。
―― 箱単位の居場所がはっきり分節されて、平面的にも断面的にもずれているんですね。
五十嵐 そうです。最初のスタディは勝手にずらしていたんですが、工法がツーバイフォーなので壁量は最低60cmないと認められません。最終的にその壁量をとるために、短辺方向の面は微調整していきました。
―― ここは、空間のボリュームとしてはどういう感じですか。
五十嵐 床面積としては、延床で40坪もないんです。ただ、僕がなるべく広くと考えるのは、とくにワンルームでは視覚的な距離がとても重要になると思ってきたからです。ここでは、客間から子ども室まで見通せます。トイレと浴室以外は完全にワンルームですね。
―― 開口部は大きさや寸法がさまざまで、位置も変えてありますが、どんな意図があるのでしょうか。
五十嵐 大きな開口部や壁を半透明にして拡散光を得たくても、コスト的に難しいときがあります。その場合、ポツ窓を分散させて開け、光をどう分布させるかを考えます。濃淡をつけて適材適所に、この部屋の用途ならこのくらいの窓が必要で、この位置にすると光がこう入るから、向こうの部屋からはこう反射して見えるだろうとか。それが連なっていくと、どうなるかといったふうに開口部を決定しています。

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