名前は耳にしても、物書きとしてどこから入っていっていいやらわからない建築家として西沢大良はあった。彼をよく知る伊東豊雄に聞いても、「作品も人柄も印象だけは強いから付き合っているが、何をやりたいのかわからない」。口も交わしたことのない私がわからなくて当然。
その西沢とちょっと前に伊東さんのプロデュースで一緒に仕事をして、謎は深まるばかり。同時進行で宇都宮にそれぞれ住宅をつくったのだが(東京ガスのSUMIKA Project)、現場打ち合わせついでに西沢の住宅に寄ると、大工さんがひとりポツンと床に座って、天井を見上げながら、「ルーバーのディテールがまだ決まらなくてストップしてるんだ」。ルーバーなんて何種類もないし、壁に比べりゃ人目が向かわない天井なんてさっさと選べばすむだろうに。
この住宅は最初の案のときから変だった。フラット屋根の天井裏が2mもあるから、屋根裏部屋に使うと思いきや、ただの天井裏で、深いふところを使って空気の流れや屋根面からの光の調整をしたいと言う。フラット屋根も透明な化学樹脂板を使うらしい。
あまりの無駄になぜそう天井方面にこだわるのかプロデューサーが質しても、朝日の光をベッドの上に落としたいとか、ほかの同席者には枝葉末節的答えばかり。
コンペは入っても2等が多いそうだが、それはそうだろう。なんせ自分の建築で何をしたいのか他人には伝わってこないのだ。2等西沢の汚名を返上すべく伊東さんに相談したら「まず笑顔を覚えろ。話し方も変えたほうがいい」と助言され、笑顔トレーニングもしたそうだが、まだトレーニング不足は否めない。