特集3/ケーススタディ

視線は斜めに、立体迷宮 武井誠+鍋島千恵/TNAホームページへ

 「ミュラー邸(*)」。1930年。
 ウィーンを拠点に活躍した建築家アドルフ・ロース(Adolf Loos 1870~1933)の最高傑作。
 同年代のモダニズム建築のなかでも突出した異彩を放つ住宅。
 プラハの傾斜地に立つこの住宅を訪れたことはない。残念なことに、図面と対照しつつ写真を眺め、またはその逆を繰り返すばかり。しかし、そのたびに新しい発見があって、飽くことがない。汲めども尽きない魅力がつまった玉手箱のような住宅。
 外観は白いキュービックな量塊。平坦な壁面を窓が深くえぐる。厳かで静的、古典的ですらある。ところが内部は一転、めくるめくような立体迷宮が展開する。広さも天井高も異なる部屋が隙間なく積み重ねられる。いくつもの床レベルが生まれ、いくつもの階段がそれらをつなぐ。動線と視線は、右に左に、上に下に、激しく振れる。ダイナミックな流動性が全空間を貫く。「ミュラー邸」の他に類を見ない魅力がそこにある。
 部屋の用途に応じて広さや天井高を自在に変え、三次元に積み重ねる。この方法はロースの独創で、「ラウムプラン(Raumplan)」と称された。それまでの住宅ではフロアが明瞭に設定され、部屋の用途と天井高の関係に重きが置かれることはなかった。
 それからおよそ80年後の東京都心に「カタガラスの家」が誕生。
 この住宅の外観に「ミュラー邸」を思わせる要素はない。だが内部をくまなく見た後に襲ってきたのは、まぎれもなく「ミュラー邸」の内部に入り込んだ想像上の感覚と同じものだった。

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