特集2/ケーススタディ

狭小に距離を生む別棟 保坂猛ホームページへ

 奇をてらった家ではない。白くモルタルで仕上げられた四角なファサードを見せる住宅だ。
 が、玄関扉にドアノブが見えない事実、通りに面した中2階の高さにあるガラスの入らない木の窓、開けるか閉めるかだけの窓に気づくなら、この時点でたいていの人はこの家の設計者のただならない意志と意気込みを予感するにちがいない。
 敷地の西、隣1軒置いた先に白山神社がある。赤い鳥居に大きな木々。同じく隣家を挟んで南10mほど先には善福寺川緑地公園。都内にこんな公園がまだあるのかと驚くような場所。しかし、ほんのわずかの距離を置いて、その緑を全面的に楽しむわけにはいかない。
 もう一度書いておく。この家、奇をてらったものではない。けれども、平面図を見ると尋常なプランでないことも確かだと思う。
 狭小の土地に3つの建物がある。土地95.98㎡。建ぺい率40%の制約。調整地域独特のさらなるきびしい制約もあった。北道路へ接する面は2m、東西に70cm、南は1.5m引くことを義務付けられている。すべてはこのなかでの勝負になり、3つの棟(建築面積37.32㎡)が建てられた。
 あらためて思う。狭小住宅は狭小であればあるほど設計上の手数、工夫を必要とすると。頭のなかは今までに見てきたさまざまな狭小住宅のプランが駆けめぐる。狭小住宅は可能な限り広い空間をつくることが一般的な解だと思われているのではないだろうか。それはそれでまちがいではないだろう。しかし、そのうえで、この家の場合、ある意味禁じ手ともいえる分割という手法で設計を進めている。「別にもうふたつの空間がある」という空間意識を誘発することで狭小からの脱出を図っている。

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