2モデュールのスイートは中庭に面していた ホテル・ザッハー・ウィーン ホームページへ

 ザッハトルテというチョコレートケーキが有名なホテル。ウィーン市街地中心のケルントナー通りに面し、国立オペラ劇場のすぐ後ろという絶好の立地。
 予約がうまく通っていなかったのか、レセプションのお姉さんが部屋まで案内してくれて「アップグレードしました。料金はそのまま」とおっしゃる。ワオ、ラッキー!
 でもこの「トスカ・スイート」は中庭にだけ面している。だから人気のないスイートとしてあいていたともいえるではないか。それに、最近すっかりハード・リニューアルした部屋もあるようだがここはそうではない。 「しかし鯛は鯛だ」とぶつぶつ言いながら実測開始。ベッドルーム、パーラー、バスルーム、ウオークインクロゼットと4室もあり、さすがに広い。ベッドはハリウッド配置だが、通常より長くて2150mm。テレジアン・イエロー(*1)のドレープカーテンをベッドスプレッドとアレンジしている。カーペットも黄色でドットが入っている。照明はウィーン風にシャンデリアが部屋の中央に。パーラーのテーブルにはザッハトルテの小さなものとフルーツ4種がきれいに並んでウエルカム。
 バスルームはダブルベイスン。独立したシャワーブースがあり、ビデも付いているから6in1。金物やタオルはたくさんあってパーフェクト。全体にまっ白。ツルピカのミニマリズムとはずいぶん違うが、こんな王宮風のほうがスイートらしいという人が多いだろう。
 1階のレセプション・カウンターのゲストスペースが恐ろしく狭くて後ろを通れないほど。古いホテルにはこういうものを見かけるが、お金やサインを他人から見られるということがなくていい。広いロビーで、長く大きなフロントレセプションのカウンター前に並ぶのは「処理されている」という感じで気分がいいものではないからだ。コンシェルジュのデスクでは椅子を勧められてひっそり用件を話すほうがいいし、マップを広げて道をたずねるのはベルカウンターでいい。フロントレセプションやキャッシャーは狭くてもいいのだ。
 いったい1級のホテルとはなんだろうか。ファイブスターといってもその都市やチェーンで勝手に名乗っているだけである。国際基準などない。シックススターとかファイブフラワーというところだってある。その評価はハード以外が半分以上を占めるのではないか。かゆいところに手が届くサービスは誰でも気持ちいいのだし、そのうえ優雅で品があって、ちょっと秘密めいて……どうみても広さや高価な仕上げばかりではない。ましてや狭義のデザインでもない。客がつくる……そう思いません?
 ところでお菓子のザッハトルテ。それを目当ての客も多いのだが、このホテルの1階、ショップが付いたバーやダイニングルームより、私はカフェでいただくほうが好きだ。静かで落ち着く。甘く、重く、素朴なもので、ホイップした生クリームとともに。
 このトルテ、あのデメル(*2)と本家争いがあったらしい。こうなると恐ろしいことに両方いただかなくてはいけないではないか!

*1
18世紀のオーストリアの王妃で女帝、そのマリア・テレジアが好んだとされる黄色。
シェーンブルン宮殿外壁に使われている。
*2
Demel: 創業200年を越すウィーンの菓子店。王宮ご用達。

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