特集1/インタビュー

6つの住宅の設計手法を聞く 五十嵐淳ホームページへ 五十嵐淳ホームページへ

状態だけに興味がある

―― 五十嵐さんの作品を拝見すると、視線の扱い方を重視していて、最近は箱のつなぎ方で距離を出しているように感じます。そういったことは、セオリーとして意識化しているのですか。
五十嵐 淳 方法論やプロセスを追って答えを導き出すのは避けています。なにか到達する前に到達点が見えてしまうのがいやで、なるべくそういうことは考えずに設計を試みるんです。それから設計していく過程で、決めるべきことはなるべく後に、ぎりぎりまで決めたくない。素材とか色とか、施主との打ち合わせのタイミングまでは、時間を使ってわざと迷おうとしています。いろんなことを見出せる方法として、時間があればまた違うことを考えられるのではないかという気持ちがあります。
―― セオリーはないようにしたいのでしょうか。
五十嵐 そうですね、自分のセオリーではなくて、その地域とか場所でのセオリーみたいなものを見出したいという夢はありますが。ただ、手癖みたいなものには逆らわないようにしたい。そこに逆らうと、自分の設計ではなくなると思うんです。そして、違和感を消すということは心がけています。なんかちょっと気持ち悪いなあということは、可能な限り減らすように考えますね。
―― この頃、若い建築家の事務所に行くと、膨大な数の模型をつくっています。五十嵐さんはいかがですか。
五十嵐 模型は必ずつくりますが、頭の中でシミュレーションできるものは、模型で膨大なスタディをしても意味がないのでつくりません。僕はスケッチの段階から、平面、断面、ディテールを同時に考えるんですけれど、2、3案をつくった時点でスタッフに渡し、模型に立ち上げてもらいます。プロセスというのは事後報告みたいなものでいいと思っているんです。
―― 今回のテーマについていうと、五十嵐さんの作品は、窓から外を見るという感じはあまりしないのですが。
五十嵐 ええ、そういう意識はまったくないんですよ。ピクチャーウインドーとか、窓から外の風景を切り抜くというのは、あまり信じない。あくまで光と風を取り入れるための、窓というよりは開口をどうするかという意識なんです。
―― すごくいい景色に立っている住宅もありますよね。
五十嵐 何が見えるかは気にしませんね。そこは絶対ではないですから。外に出ていけばいいと思いますよ、家の中から眺めなくても(笑)。光が大事です。光が壁にどう当たって、それがどう反射するかということが最も気になる。そこは模型でシミュレーションをします。スチレンボードに銀紙やアルミホイルを張って透けないようにし、光を当てて検討します。
―― 以前から、「居場所」といういい方をされていますね。
五十嵐 はい、住宅に限らず建築空間の中では、移動することより留まることのほうが重要だと思っています。それを居場所と言っています。居場所の設定がまず大事で、その居場所がほかの居場所とどう視覚的につながるのか、どう関係性が発生するのかが重要だと思います。それから、居場所もそこがずーっとリビングであるといった設定はなるべく避けて、多様な感覚をどの居場所でも受けられるようにしたい。それには、光を重視するのと同時に、視線の抜けとか見え方を考えていきます。
―― また、「環境」ではなく「状態」が重要だとよく発言されていますが、そこにいたくなったり、留まりたくなったりする状態をどうつくるかということでしょうか。
五十嵐 まさにそうです。状態をつくるための与条件を、いろいろな操作でつくっているのかもしれませんね。状態のみに、僕はたぶん興味があるんです。どういうプロセスや手法を踏もうが、結果として状態が大事だと。それは空間ということですね。
―― では、具体的な住宅作品についてお聞きしていきます。
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