特集1/インタビュー

Part 1

距離の拡大、半透明のレイヤー「間(あわい)の門」2008

―― 「間の門」にうかがったとき、すごい空間のボリュームに圧倒されました。リビングダイニングから先は、幅が9.1m、高さが4.7~5.4mもあります。部屋というより、そこを満たしている空気の塊みたいなものを感じました。
五十嵐 北の道路側は一般的な2階建てよりずいぶん低いんです。中に入って、谷のような吹抜け通路の先に、あるボリュームが現れます。南側の奥に行くほど天井高も大きくなるので、そういうエアボリュームは感じるでしょうね。テラスを含めてこの空間だけで50畳くらいあるので、物理的にも広いんです。この敷地はまわりが建物に囲われていますけれど、住宅としては十分な敷地面積だったので、とにかく大きな空間をつくってあげようという意図はありました。
 それから、もともと地盤レベルの低い奥の庭とリビングとをどうつなぐかと考え、バッファー、緩衝空間のヒエラルキーをつくろうというのがスタートでした。
 屋外の庭があって、半屋外的な縁側のようなテラスがあって、あまり断熱性能がよくない両引きのサッシを挟んで室内になります。
 そこで、サンルームと、もうひとつのスペースを熱環境的なバッファーにし、3つのレイヤーを通してリビングダイニングに到達するという構成を考えました。サッシ面ではコールドドラフト(*1)が起こりますが、冷気は床の段差を乗り越えてこないんです。またサンルームにも床暖房が入っているので、ガラス面を下りてきた冷気をあたためることができる。もうひとつは、カーテンはかなり断熱性能があるので、それが3枚重なることで空気溜りが確保されますから、空気の温度変化が救えます。
 また同時に考えたのは、そういう構成をするのなら、門型をつくって、視線を下に向けようということです。奥はご両親の家の庭なんですが、その先のほうには雑多なものがありますから、下方に向かって絞っていくような視線をつくりたかった。そして壁のエッジは45度に角をとっていて、光をスパッと切り取る。「光の矩形」(2007)でよい効果が得られたので、ここでも使っています。
―― 壁厚を見えないようにしようということですね。
五十嵐 そうです、そうするときれいにラインが出るので。
 また、客間がほしいという要望に応じてリビングの一部を泊まれるスペースにしたり、書斎や子どもの勉強スペースや収納を正面から見えない位置にセットしたりと、細かな要件も同時に解いていきます。自分なりに違和感のない形にするために、行ったり戻ったりという作業をずいぶん繰り返しました。最初から、門型が連なって庭に到達するといったビジュアルを描いていたわけではありません。
―― これを見ると、ステージ、それも内側から見るステージだと思いました。紗(オーガンジー)のカーテンからもそんな印象を受けます。
五十嵐 ここでは拡散光を取り入れたいというのがまず重要で、それも可変的にしたかった。固定したものなら、「矩形の森」(00)のポリカーボネイトとか、「Annex」(写真A)のFRPと寒冷紗とか、あるいは型ガラスでもいいんです。ただこの大きさの建具となると、コストも膨大ですし動かすのも大変です。そうなると、カーテンのような簡易なものが一番適している。
 半透明なものを重ねていくと、不透明に限りなく近づいていって、光の具合もずいぶん変わってきます。「大阪現代演劇祭仮設劇場」(04)ではポリエステル製のエアチューブとオーガンジーを使い、北方民族博物館の展示構成「density」(写真B)では農業用寒冷紗を17層のレイヤーにしました。寒冷紗の中を進んでいくと、だんだん透明度が上がって向こうが見えてくるんですが、振り返ると最初と同じ状態になる。そんな経験もフィードバックして使っています。
―― 東西面にも小窓はあるんですね。
五十嵐 ええ、最低限の換気窓を付けました。あまり強い光は入れたくなかったのですが、袖壁の脇から若干光が入るのは悪くないと思いました。型ガラスの外側に、外壁の波形と同じ断面のFRPを張ったすべり出し窓なので、これもほぼ拡散光になっています。
―― ここでは、デザインと構造がすごくうまく合っていると思います。壁もすごく薄く見えます。
五十嵐 構造家はいつもお願いしている長谷川大輔さんで、標準的なツーバイフォー、枠組壁工法です。壁厚は普通ですが、空間が大きいのでそう見えるかもしれません。ただ、一番手前の門型では、木造で5200mmくらいのスパンを飛ばしていますから、成(せい)が540mmというテーブルみたいな梁が入っています。積雪荷重もかなりかかってきますので。
―― なるほど。門型は設えみたいに見えますけれど、それがないとこの空間は構造的にもたないわけですね。
五十嵐 ええ、短辺方向はほとんど壁がないので、この袖壁で押さえているわけです。
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