
- ―― 何年ぐらい使いつづけようとお考えですか。
- 小川 20年でしょうね。やはりそのくらいたてば時代とかけ離れてしまいますし、設備もだめになっていきますから。本店の建物もちょうど20年で壊しました。まだまだすてきな店だったのですが、設備を入れ替える工事で出費が予想以上にかさむことがわかり、それであれば、と建て替えることにしたのです。
- ―― 中村さんと永山さんは、おふたりとも店舗の設計を手がけておられますが、インテリアの寿命は何年ぐらいと考えていらっしゃいますか。
- 永山 一般的には10年くらいでしょうか、時代的に。
- ―― 中村さんはどうですか。
- 中村 それは重々わかりますが、永遠にもってほしいと思っています(笑)。
永山 建物があれば、内装を変えることで更新していけると思います。インテリアはやはり期限があるでしょうね。ずっと通っているお客さんも、インテリアが変わることで気持ちも変わるというイベント性を求めていると思います。 - ―― これまで美容室は、インテリア的な発想に終始していたような気がします。でも、この美容室や永山さんの案はとても建築的な発想で、美容室全体がこうした刺激で変わるのではないかと思うのですが、インテリアと建築の違いはどこにみえると感じていらっしゃいますか。
- 永山 私が独立して最初に設計したのがインテリアでしたから、しばらくは「インテリアをやっている人」ととらえられました。そのときには「インテリアと建築は違わない。空間をつくるという意味では変わらないんだ」というモチベーションで設計していました。あえて違う点を挙げると、建築物は街や都市と近いスケールに位置します。なので、建築では大きな視点から発想することが求められます。ただ、インテリアに関しても建築と同じように街や都市レベルから発想する必要があるのではないかと考えています。「ルイ・ヴィトン京都大丸店」(04)のファサードを設計したときはとくにそうでした。やはり「建築の設計ではない」とも言われるのですが(笑)、建築も結局は「物」としてではなく「経験」の集積で語られます。そのときに設計者は「物」としてデザインするというよりは「経験」のどの範囲をデザインするかということになってきます。たとえば、人が駅で降りて目的の建物まで行って中に入り、1~2時間過ごして出てくる。通して4時間かかるとすると、1日24時間のうち4時間分のデザインというように考えています。そういう意味では、物理的な長さが違ったり導入部が違ったりするだけで、建築もインテリアもあまり変わらないと考えています。
中村 体験的ですよね、京都のルイ・ヴィトンも。
永山 通りすぎる長さは25mあります。歩けば20秒、車では3秒のあいだに何を見せて何を気づかせるか、というデザインでもありました。この美容室でもそうですが、やはり人はこうした建物によって何かに気づき、感化されたいと思っています。瞬間をつくるという意味では、建築やインテリアやファサード、という分け方はしたくないなと思っています。 - ―― なるほど。中村さんはいかがですか。
- 中村 僕も体験や現象をつくるという意識で設計しています。だから建築とインテリアに差はない。あえて言うとすれば、設計するときの距離の差でしかないと思っています。平面図のような上空の離れた視点からデザインするか、手が壁に触れるぐらいの距離感でデザインするか、その距離の違いでしかありません。インテリアと建築には明確な線を引かないほうがおもしろい。とくに近代建築は対象物から離れて引いてみて設計することを称揚したから、そこから抜けおちたものはそうとうあります。以前『TOTO通信』(07新春号)にのった「HOUSE SH」(05)などは、壁に座るとか寝そべるとか、めちゃめちゃ近い距離で設けましたが、それも同じ考えからきています。
- ―― レストランの特集をしたこともあるのですが、レストランはお客が入ってきて注文をとってどう処理するかというところまで「しつらえ」だけで追っていけるのですが、美容室はそうでもないですよね。
- 小川 美容室でも、受付から接客までのしつらえは一応ありますが、私はあまりそれは考えませんでした。お客さんを中心に考えた建物にスタッフが合わせていくほうが楽しいものができるでしょうね。
中村 それは「おもてなし」ですね。じつは近代建築は今まで「サービス」というものを考えてこなかったんです。以前コールハースが、ショッピングという概念が都市を自動生成していると喝破し、建築家がコミットしてこなかった事実を指摘しましたが、同じように、「サービス」についてあまりに無関心だった。しかし社会が成熟し、サービスのような第三次産業の質によって付加価値化を図る現代でそれでは、社会と隔絶してしまう。現に建築家は、サービス概念が不在の住宅や公共建築しか相手にできず、中に何が入ってもいいような箱型近代建築から抜け出せていない。しかし近代以前の住宅には客をもてなすという意識があったし、建築と「サービス」は相関している。この美容室では、企業戦略の構築とそこから導かれる新しいサービスの提案から始まり、それをオーバードライブさせて新しい空間や体験を生むというプロセスを経たわけで、僕自身この物件を通して、従来の建築家の職能を超えた新しい設計方法を発見したと感じています。





