- ―― 若い人が新しい空間体験をする場というと、昔は喫茶店やカフェバーだったと思うのですが、今はそれが美容室になったのではないかと思います。最初にこの「エッジ・ロータス」のオーナーの小川さんにうかがいますが、ご自身の新店舗の美容室をつくるにあたって、コンペ形式にしようと決心された理由はなんですか。
- 小川清子 どこにもないような、すてきなものを建てたかったからです。今までみたいに、ぽんと誰かに頼んでしまうのではなくて、何か新しいことをしたかった。それにコンペにするとどんなことになるか、やってみたかったということもありますね。お金をたくさんかけるのですから、いろいろな案から選べるのはうれしいですよね。全部で5社に声をかけました。
中村拓志 美容室をコンペにしようという、その考え方自体が画期的ですよね。
美容室の経営者は、普通、美容機器メーカー系の設計グループに依頼しますよね。それ以外の選択肢があると考える人は少ないと思います。
永山祐子 エッジ・ロータスの場合、建物からインテリアまで全体の設計でしたから、その効果も大きかったですね。
小川 美容室が業界にくわしい建築家やインテリアデザイナーに仕事を依頼するのは、経験と実績を認めてのことでしょうね。機器のことや動線の具合などの機能性をよくわかっているから安心、という考え方。はじめての建築家に頼む場合、働きにくいインテリアができたらどうしよう、という心配があるでしょう。けれど私は自分たちが働きやすいように動けばいいと思っています。
本店を設計者と相談しながら建てた経験がありますから、具体的に話を進めるなかで都合が悪いと思うところは、その都度検討すればいい。それは修正できます。
まずは、パッとひかれるような、夢のある器がほしかったんですね。 - ―― コンペの人選はどうやって決められましたか。
- 小川 子どもたちが情報を集めてきました。
私と子ども3人は美容の道に進んでいて物をつくることが大好きな家族なんです。そのうちのひとりが雑誌で中村さんのインタビュー記事を目にし、さらにホームページで検索しながら、永山さんの事務所にも行きあたりました。永山さんの手がけられた「afloat-f」(2002)はすでに美容雑誌で見ていたので、いいなと思いまして。
でもコンペをするといっても本当にできるかどうかわからないので、まずは永山さんに電話をかけたんです。そのとき永山さんは不在だったのですが、軽く要件を伝えました。美容室であること、場所と坪数、総額やオープンの期日。すると夜遅くに永山さんから直接ご連絡をいただきました。考えてみますと言われて、翌日にオーケーの返事をいただきました。中村さんにも同じような感じで連絡して、コンペ参加の返事をいただくことができました。 - ―― このコンペの設計期間はどのぐらいでしたか。
- 永山 1カ月ぐらいでしたね。
- ―― 小川さんから「これだけは守ってほしい」という注文はなんでしたか。
- 小川 希望をまとめて、手紙を書きました。少し読みますね。「全体の70%が女性ドライバーなので、車の出入りが楽であること。最大車両数。スタッフ数は10名から25名。足を止めたくなるような異空間の刺激的な建築。外は刺激、中は癒し。立地条件のなかで生かせる景色と空気と日の光。営業は午前9時半から午後7時まで。お客さまの滞在時間は最低1時間~最高4時間。平均2時間のなかで疲れをとり癒されるインテリア。20代~30代を中心に幅広い客層。この敷地では100坪は小さい建物なので、大きさを感じさせるような仕掛け。1階70坪、2階が30坪の予定であるけれど、変更は自由。設計費、給湯、空調、鏡込みで1億円。共に楽しみながら夢の器の完成まで一流の先生と交わり、ご一緒できることを喜びとしています」と。
永山 そのお手紙がすてきでしたね。