特集3/座談会

自分は特別だ、と感じさせる空間

―― プランについて、永山さんからうかがいます。設計するにあたって、リサーチは何かされましたか。
永山 いえ、参考にしたという美容室はとくにありません。最初に敷地を見に来たときに、眺望がよいので国道の喧噪から離して浮いたような場所をつくってあげるほうがいいかなと思いました。目立たせて建物全体をサインのようにするということと、日常と切り離すという意図です。そして、来られるお客さん一人ひとりが自分は特別と思えるような、小さい単位の空間でつくっていくことを、新しい美容室として提案できないかと考えました。課題だなと感じたのは駐車台数を多く確保することでした。
―― 壁が連続して、中央に通路のための開口がある。このプランを見たときに「西洋の城」の平面図がイメージされていると感じました。全体が弧を描いていて見通しがきかない。最終的には迷路になるように設計されていると感じましたが……。
永山 そのとおりですね。廊下がなく部屋が連なっていって全体ができています。次の部屋に行くとまた違う世界の空間がある。このときに一番興味をもっていたのが、次の空間を予測できないようにつくることでした。一つひとつの空間はまったく違うしつらえにしたいと思ったんです。映像がパッパッと切り替わりながらつながることにも興味があり、次から次へと空間に入っていくことでシーンが連続するようにと考えました。それぞれの部屋では、壁に対する場所によって光の入り方が少しずつ変わるという微妙な操作をしています。
―― 通路のための開口が弧を描いている理由はなんですか。
永山 全体に見通しがきかない。連続していて最後まで見通せないというのがポイントです。壁を通って次の部屋に入るごとに新しい空間があり、感覚がつねに研ぎ澄まされることを意図していたのですが、最初に入ったところで一気に突き当たりが見えると、その瞬間に奥行き感が途絶えてしまいます。この道を湾曲させれば、ずっと最後が見えずに新しい空間へと入って行く体験が強調されるだろうと思いました。これは、模型をつくりながら検討しましたね。
―― 美容室は全体として、個室化に向かっていると思います。この案はスペースが分割されていますが、どのようなことから決定されたのですか。
永山 自分の感覚ですね。自分がいいと思える空間は、たぶんほかの人にとってもある程度いいのではないかなと。自分が美容室に行くときのことを考えると、ただ髪を切るためだけではありません。女の人が美容室に行くのは、やはり気持ちの切り替えですとか、変身する特別な感覚を得るために行くのだと思います。まさしくヘア「サロン」ですよね。サロンという部分を特化した空間を提案したほうがいいのではないかと感じました。
―― 中村さんの場合は、個室化はどのようにとらえていましたか。
中村 個室とは社会の多様化とともに「大衆」という存在が消失した後に出てきた個別的サービスを行う場です。当時は個室の居酒屋が出てきたり、VIP的な顧客をプライベート性の高い空間でサービスをするという業態が出つつありました。そのなかで、美容室は時代からずれていると感じました。ほとんどの美容室は客の居心地よりも作業動線のほうを優先して、「大衆」をさばくようなプランです。
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