特集3/座談会

いろいろなものがなめらかにつながっている世界

―― お客さんの扱いで、うかがいたいことがもうひとつあります。とくに女性のお客は、後ろの人と目線が合うのを嫌うようです。おふたりの設計では、きちんと鏡の位置をはずしてありますよね。これは自然と気づいたのですか。
永山 そうですね。隣の人よりも後ろに座っている人のほうが、合わせ鏡のようになって気になるだろうと思いました。前に手がけた美容室では大きな鏡を設けましたが、そのときは空間として広がりをもたせるという意味があり、あえてつくったものです。
中村 僕は個室を志向したので、その問題は自ずと排除されました。
永山 平面としてはかなり大きいと思ったので、どう区切るかということはふたりとも考えていたことだったと思います。
―― すごく建築的ですね。中村さんの案は、立ったり座ったりすることで個室のようになります。でも一方では、個室化することは避けたのですね。
中村 閉塞感のある個室、サービスの連携の悪い個室は問題があるので、個室と大空間が目線のレベルだけで切り替わるような、連続した空間を目指しました。なんとなく、いろいろなものがなめらかにつながっている世界を想像していたのです。蟻の巣をスライスしたような天板の面と、高さが変化する床面との垂直方向の距離によって、腰壁は椅子になったりテーブルになったり間仕切り壁になっていきます。「椅子」や「テーブル」と命名して使うというより、シームレスに使い方が変わるようなものに興味があったのですね。
―― 床を階段ではなく傾斜させたプランはどんなふうに生まれましたか。
中村 敷地の傾斜を建物に取り入れたほうが経済的にも合理的ではないかと考えました。また、少し斜めになるとフラットの空間にいるときとは受ける感じが変わるという、人間の身体感覚についても興味がありました。
―― 床が斜めで使い勝手は大丈夫ですか。
小川 濡らしたままにしないことを徹底していますね。ハイヒールを履く女性にとってはとくに滑りやすくなりますし。それよりも、仕上げを真っ白にすることには決心がいりました。美容室で床が白いと絶対に汚れるとわかっていましたが、白でなければ意味がないということには私も納得しましたし。
―― あの白の仕上げはペイントですか。
中村 エポキシ樹脂系の塗料を数回塗っています。パーマ液やカラー液には強酸と強アルカリの両方があって、どちらも床に強く吸着して取りにくい。そこで表面には弱いコーティングをかけています。もしカラー液などが落ちてもすぐに拭けば大丈夫なのですが、しばらくそのままにしておくと食いついてしまいます。その場合は、強くこすれば表面の層ごと取れるので、またメンテナンス用の材料でスタッフが塗ればきれいになります。小川さんにはこの方法を一緒に体験していただいて、どうしても白でやりたいからこれでお願いしますと頼みました。そのためにたくさん実験しましたね。
小川 白と決めたときに、汚れるけれど掃除も徹底するようになるし、そういう精神も大事だろうねと話していました。
中村 ポジティブにとらえていただきました(笑)。
  • 前へ
  • 3/7
  • →
  • Drawing
  • Profile
  • Data

TOTO通信WEB版が新しくなりました
リニューアルページはこちら