特集5/ケーススタディ

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まずはスタッフが楽しむ

 美容室の設計には基本的な「設計手法」があると信じてインタビューを始めた。設備関係、外部からの視線の受け入れ、立地その他、確かにないわけではない。保健所とのやりとりには基本原則としての手法が存在する。しかし、それは単なるマニュアルの問題でしかなかった。本質は別にあると教えられた。
 図面と写真を眺めて訪れたのは熊沢信生さんのふたつの仕事。偶然、ふたつとも広島にあった。
 最初に訪れた「スタイル並木通店」はスペースプロデューサーであるジャック企画・川崎孝司さんと共同作業の美容室。熊沢さんがまだタカラスペースデザインで仕事をしていた頃からの付き合い。ふたりがまず語ったことは「スタッフにいかにして楽しく働いてもらうか」ということ。これにつきると。これはその後に訪れた「ウィスタリアフィールド」のオーナー藤田善洋さんもまったく同じ発言をしている。
 店が顧客に示したいのは「元気なスタッフ」であり、「各人の個性」であるという。それは仕事のあいだに示されるものであり、かつ、ガラスを透して通りに投げかけられるメッセージでもある。それが店づくりの一番大切なことだという。空間はそのことを中心にして組み立てられる。
 もちろん美容室といえども「しつらえ」の基本はある。しかし、語られる言葉の重みはスタッフの自発的意志の高揚にあった。顧客でもなく、仕掛けでもなく、最初に来るのはスタッフ。意外であると同時にあらためて設計の原点をどこに求めるべきかを教えられた。

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