
確かに技術は大切。言うまでもない。そして立地も重要。川崎さんは「1に立地、2に立地、3に立地」と語る。しかし、そのすぐ後に彼はスタッフが快適であることの大切さを説く。立地、店舗、人間力のバランス。それもこれもスタッフを集めるための仕掛けであることを確認する。総合力のあるところには「表現力のある人、自信のある人」が集まる。その結果、チーム力が高まり、レベルが維持される。それがメッセージとして店の外へ流れていく。それが重要、そのためのデザインがされている。
スタイルは1階の路面店、スタッフの動きがじかに感じられる。広い店内にランダムに置かれた鏡とカット用の席は、一瞬で客数やスタッフ数を見て取ることはできない。ある意味で、客が少なくても繁盛店に感じられるように仕掛けられている。
美容室はつねに成長を考えている。人材を育成しないとそれができない。スタッフが快適でいられる店はおのずと表情に出る。
ウィスタリアフィールドの藤田さんは美容学校を出ると同時に、東京の萩原宗美容室に入った。有名店だ。21年前のことだというが、そこで体験したのは食事をとる場が洗濯機の上という職場環境。それでもがんばれたのは伸び盛り、最盛期の業界だということがあったのだろう。夢を描いて始めた仕事で遭遇したのはそうした環境だったというが、当時、これは決してこの店の特殊な事情ではなかったという。しかし、今は違う。
美容業界は驚異的な売り上げ増の時代から、きびしい選別の時代に入ってきた。先にも書いたように美容室の発展に欠かせないのはスタッフ。それもいきいきと競い合って仕事をするスタッフだという。言葉だけのことではない。
求職者は必ずといっていいほど、まず客として来店するという。スタッフのチームワーク、いきいきと働ける環境かどうかを見極めにくる。新人を求めるとき、求職者のきびしい選別眼に耐えなければならない。バックヤードのハードのあり方はもちろん、スタッフの評価、環境全体が見据えられている。設計はそこを見落としては成功はおぼつかない。経営者もその事実を言語化して把握している。集客の前にスタッフ問題があるということだ。
その点でウィスタリアフィールドの徹底ぶりは見事なものだ。4階建てのビルの最上階はスタッフルームでスタッフが自由に使える場として用意されている。大きなオープンキッチン、ロフト付き。昼食はここでゆったりととり、ときには何人かでみんなの夕食を料理したりする。
藤田さんがこのビルを建てるにあたってスタッフにした約束、設計の熊沢さんに依頼した言葉は「星を見ながら映画を見せる」というもの。テラスを開け放してスクリーンを下ろせばまさに屋外映画劇場。
もうひとつ特徴的なことはウィスタリアフィールドの美容室としての店舗構成。美容室は2~3階にある。エントランスのサインは「ここまで」というほどに小さい。美容室的なサインは皆無。外部からは知る人でないとなかをうかがい知ることはできない。客はお得意さまであるか紹介者でしかありえない仕組みになっている。しっかりと顧客をかかえていなければ成立しない。言い換えるとフリーの客は期待していないということ。
1階はカフェ。もしかしたらここで美容室と気づくのだろうか。聞いてみると「待合としても使えるから」と。どこまでも抑えた仕組みになっている。





