特集1/エッセイ

いつの間にか男も女も美容室

 カリスマ美容師という言葉を、ひところよく聞いた。しかし、カリスマ理髪師という言いまわしを耳にしたことは、いちどもない。われわれは、美容室にならカリスマはいるだろうと、思っている。しかし、散髪屋からカリスマがあらわれるとは、考えていないようだ。
 散髪屋に、それほどの技術がないからではないだろう。日本の理髪師がたくわえてきた技は、世界でも高く評価されている。国際的な評判は、むしろ理髪師のほうが美容師をうわまわるぐらいかもしれない。
 にもかかわらず、とあえて書く。散髪屋にカリスマはなく、美容室のほうにカリスマはいる。これはいったい、どういうことなのか。
 理髪師は、髪をととのえ髭をそる手さばきを、もくもくとみがいてきた。それで、自分の名をとくにあげようとは、していない。おそらく、自分たちのことは、一種の職人として位置づけていると思う。
 しかし、美容師のなかには、そういう枠にとどまりたがらない人材が、すくなからずいる。だまって、技術をきたえあげるのではない。少々、はったりめかしてもかまわないから、自分の腕前をまわりにふいちょうする。それで、自らの商品価値をつりあげようともくろむ人々が、まちがいなくいるのである。
 そう言えば、ヘア・アーティストという言い方も、しばしば聞かされる。理髪師が職人なら、美容師はアーティスト、芸術家であるということか。その内実が、アートと呼ぶにふさわしいのかどうかは、よく知らない。だが、名前のとどろかせぶりからは、アートらしさが、確かににおってくる。
 美容室と散髪屋の店がまえからも、同じような話はできるかもしれない。

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