観光庁インタビュー
受入環境整備は旅の満足度を高める土台
ー これまでの受入環境整備の現状はいかがでしょうか。
2019年の訪日外国人旅行者は年間およそ3188万人。各種プロモーション活動やビザ緩和と同時に、トイレの洋式化などの受入環境整備を進めてきた成果が着実に表れていると実感しています。訪日外国人が帰国した際「日本はすばらしかった」と周囲にも伝えていただけるよう、取り組みを進めています。
そのためには各地域で訪日外国人がどんな体験をしたのかが問われます。プロモーションばかりが先行しても、目的地への移動がうまくいかなかったり、トイレが不衛生だと満足度は低下します。ともすれば「せっかく訪れたのにがっかり」となりかねません。受入環境整備は観光地の地力を底上げするために、おろそかにできない部分。観光地の魅力向上と、トイレをはじめとする受入環境整備による基礎体力づくりを同時に進めていくことが重要と考えています。
ー これからのトイレ整備の方針について教えてください。
8割を超える訪日外国人旅行者が洋式トイレを望んでいる(※1)とのデータがあるように、整備方針の中心は洋式化です。一方で2017年に実施した調査(※2)では観光地にあるトイレの約4割が和式トイレでした。その解消に向けて施策を展開してきましたが、まだ和式トイレが残っているのも事実。日本各地には魅力的な観光資源がありますが、トイレが暗くて汚い印象だと旅の思い出に水を差してしまいます。当庁では今後もトイレ整備の支援を推進し、まずは2020年度に洋式化率「7割」を目指しています。
- 出典:「訪日外国人旅行者アンケート調査」TOTO調べ(2018) n=150
- 出典:「訪日外国人旅行者受入を想定した観光地における公衆トイレの現状調査」観光庁(2017) n=3872
富裕層を意識した整備も重要
多様な宗教・文化に寄り添う
ー 多様化するニーズにどう応えていきますか。
近年は富裕層の方もたくさんいらっしゃっています。ハイグレードな宿泊施設の整備や日本固有の自然や伝統文化など本物志向のコンテンツの磨き上げなど、富裕層向けの環境整備にもさらに注力しなければいけないと考えています。
もっとさまざまな国の方にお越しいただくには、日本とは異なる宗教や文化の方が安心して過ごせる心配りも必要になるでしょう。例えば、イスラム教徒(ムスリム)は宗教上の規範として排泄後に排泄部位を水で洗う必要があります。こうした習慣に寄り添うトイレがあれば、安心して過ごしていただけます。
2020年の先へ、地域に喜ばれる受入環境整備を
ー 今後はどのように取り組んでいきますか。
地域経済の振興の面でも、受入環境整備は重要な意味を持ちます。訪日外国人旅行者がスムーズに移動し、「まちあるき」を満喫できる地域をつくることは、訪日外国人旅行者の旅行消費額を引き上げる助けとなるはずです。その一つとして、トイレ整備は見逃せない要素だと考えています。
トイレ整備をきっかけに、地域の方々の施設維持管理に対する意識も高まったと報告されています。地域のみなさんのご協力があってこそ、受入環境整備は前進します。
2020年は〝通過点〟に過ぎません。「2030年に訪日外国人旅行者数6000万人」の目標達成に向けて、今後も環境整備を後押ししていきます。
桜井市にある大神神社(おおみや)は、日本最古の神社と言われており、スピリチュアルな体験を目当てに大勢の訪日外国人旅行者が訪れます。その最寄り駅であるJR三輪駅の公衆トイレが、国や県の補助金を活用し建て替えられました。以前は和式トイレのみでしたが、建替後はすべて温水洗浄便座付き洋式トイレとなり、多機能トイレも設置。ハンドドライヤーや自動水栓も整備され、訪日外国人はもちろん地域の方々にも喜ばれています。
「今後好んで使いたい」と思った公共トイレの理由を教えてください。
また、「今後二度と使いたくない」 と思った公共トイレの理由を教えてください。
好まれるトイレと使いたくないトイレ、双方に共通しているのが「清潔」です。また次点には「温水洗浄便座の有無」もランクイン。
ムスリム旅行者には、温水洗浄便座は重要な要素といえます。
観光庁では、ムスリム旅行者の受入への対応を始める際の手助けとなる「ムスリムおもてなしガイドブック」を発行・公開しています。
詳しい内容は、
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