特集/インタビュー⑥

東京・谷中の螺旋の家

 ようやく着工したという谷中の住宅「二重螺旋の家」の模型を見せてもらう。
 土地形状は旗竿敷地。長く細い路地を入るとその通路が、そのまま中央に建てられた鉄筋コンクリート造の塔状の箱を巡りながら最上階へ抜けていく。巡っていくと、住居としての変化に富んだ内部空間が繰り出されてくる。「SDレビュー2007」に出された「千ヶ滝の別荘」のプランを見て依頼してきた建て主と、空間の使い方を相談しながら決定してきたという。巡らされた階段や廊下、テラスはときに外部、ときに内部空間に取り込まれることで、思いがけない新鮮な空間を生み出しているようだ。
 廊下部分の外装材はスギ板になるらしい。ガルバリウムでも白壁でもない。モダンデザインを離れた表現がここにある。まだ谷中には古い民家が点在する。そのリサーチの結果、この地の風景になじむことを求めて決定したという。町の中で突出した建築作品として造形する力みは消してある。
「千ヶ滝の別荘」の鉄の屋根に張り重ねられるのもスギ板。あらためてその決定要因を聞く。「時間とともに朽ちていく様子がどのようになるか」。その変化が期待値としてあるという。
『二重螺旋の家』では、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』のなかにある、マドレーヌのくだりのイメージがあった」と言う。「この家は、すべての部屋がひと続きになった、とても経路の長い家。その空間の連なり方は、小説のなかで、冬の日の菩提樹のお茶に浸したマドレーヌの味わいから、幼い日の記憶のなかの空間が、舞台装置のようにひと連なりに蘇った様に似ている」とも。意識下の体験を探っていく作業もまた試みられている、というべきか。
 そこにはどこか従来型の建築家とは異なる、何かがあるような気がする。20世紀を長く支配しつづけたガラスや鉄、コンクリートの歴史に対するアンチテーゼもわき上がってきているのだろうか。若い世代の人たちの同時代性あるいは相似性というべきものが、その根底にあるのかもしれない。いつの時代にもみられることかもしれないけれど、その論理と成果を確認するには、さらなる20年の時間が必要なのか。確かにここには何か新しいことが起こっている気配を感じさせられているのだが。

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