特集/インタビュー④

「SPROUT」第2の地面を空中につくる

峯田 「SPROUT」の立つ敷地は、江戸時代に新田開発された地域にあり、長手方向に1㎞ほどある区画です。周囲には里山が残り、農地でとれたものを消費する循環した生活が営まれています。ここに駐車場として使っていた老朽化した納屋があり、そこを取り壊して母屋とは別に、子世帯のための住まいをつくることが要望されました。母屋を改造して親世帯と一緒に住むことや、敷地内にある築100年ほどの蔵を改造して住むことも提案しましたが、やはり離れを新たに建てることが決まりました。すでにある環境に対して、どのように住まいをまとわりつかせていけばよいのかを考えることになったわけです。最も大きな要求は、車8台分の駐車スペースです。農作業のための車両が行き来する敷地内の道に面すること、また屋根付きとすることが必要でした。当初は1階が駐車場で2階が住居とする案も考えていました。
恩田 1階をすべて駐車スペースとする場合、スパンを大きく飛ばさないと使うことができません。見積もりで高く出すぎたこともあり、コンパクトに建てることを考えるようになります。それで、小さな家のまわりに車を置くための下屋をつくるように検討していきました。駐車スペースの屋根面での照り返しが2階の生活空間にダイレクトに入ってくることを防ぐために、鉄骨の屋根に芝屋根を載せることにしたのです。
――スカートのように屋根が建物のまわりに取り付く様子は特徴的ですね。
峯田 下屋をぐるりとつなげる必要はなかったかもしれませんが、車庫の屋根を第2の地面(庭)と見立てることを思いついたら魅力を感じて、どの窓にも庭をもたせたくなりました。屋根の下は、北側は設備的なスペースにあて、車の動線に面した南側は、農作業の合間に休憩するスペースとしています。この車庫の屋根によって、2階から車両の姿は遮られます。1階でも床レベルを地中に少し落とし、壁に凹凸をつけることで、家のそばを通る車両の存在を感じにくくしました。こうしてできた住宅は、眠る場所としての「地中」と、活動する場所の「地上」を行き来する屋内空間をもちます。
恩田 鉄骨造の下屋が木造の建物本体と900㎜離れているのは、混構造とみなされると確認申請に長い時間がかかってしまうからでした。構造として縁を切っています。
峯田 下屋と本体の建物とのあいだにスリットができることで、光が下に落ちて1階まわりが暗くなることを避けることができました。2階では開口の下端と芝の高さを揃えることで、芝に取り囲まれるような雰囲気を出しています。さらに軒を出すことにより生活空間の視線を上下に絞り込むように操作し、周囲の緑をより遠くの緑とつなげるとともに屋内に引き寄せようと考えました。2階の窓の高さは床から1610㎜、下端720㎜で、座るとちょうどよい高さになります。そして軒下で光は反射して、芝の映り込みと一緒に室内に導かれるようになっています。
恩田 軒下は本当はガラスにしたいと思っていたのですが、高価なことと脱落時の危険性があることから、透明の塩ビ板を張っています。私たちは、窓を設けるときには基本的に軒を出しています。今回は窓の上部の軒裏に空間を設け、予備の収納スペースとしました。2階では四方の壁に窓を設けているので、収納を軒裏に確保したわけです。
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