
今、美容室は変わろうとしている。量的・効率的経営志向から質的・効果的経営志向にベクトルを向けはじめている。美容業界にとって、物理的な人口減少だけをみれば自ずと市場パイが小さくなるのは当然である。しかし、美容業の将来を考えれば、前述してきたように「ヘア」「スキン」「ネイル」といったメニューの多様化と、それらの「ケアビジネス(注3)」や「リラクセーションビジネス(注4)」が大きな鍵となってくる。また、若年層よりそれらに魅力を感じる熟年層のボリュームが増大しており、ビッグチャンスを迎えているともいえる。それらの市場拡大のためには「器づくり」もさらなる進化、深化が望まれる。
日本の美学の象徴に「幕の内弁当」が挙げられることがある。和を表現した全体のデザイン、蓋を開けると中は仕切りが設けられ、それぞれの食材が主張しながらも調和のとれたすばらしいものである。欧米のバイキングとは明らかに表現思想が異なる。美容室のデザインもこの方向が大いに参考となるのではないだろうか。
これからの美容室は顧客ターゲットやコンセプトによる店全体の「店舗デザイン」と、メニューの魅力を演出する「空間デザイン」が調和した、個として主張のある「店づくり」が市場拡大に不可欠となる。また、メニューの多様化により美容室内での滞在時間も長くなり、これからの美容室空間は一流ホテルのもつ上質なホスピタリティや、長くいても心地よく過ごせる高度に計算された空間デザインが要求される。
(注3)
ケアビジネス
おもに「ヘアケア」「頭皮ケア」を指す。時代とともに消費者の期待、欲求は「きれいになりたい=ヘアデザイン」から「健康でいたい=ケア」へシフトしている。美容室は今、それらのケアサービスをビジネス化していく傾向にある。
(注4)リラクセーションビジネス
さらなる消費者の期待、欲求は「健康でいたい=ケア」から「リフレッシュしたい=リラクセーション」へと進化。「心のケア」までも美容室としてビジネス化しようとしている。施術的にはアロマ、ミストによる温かさ、人の手に触れられ与えられる安心感、静けさのなかにも心地よく届く水音、これらすべてが心と身体を解きほぐす効果を与える。
ライティングを含めた五感に訴える空間デザインが重要になってくる。





