
- ―― 美容室によって鏡の扱い方はかなり違いますね。こちら(DaB表参道店2階)は全面鏡ですね。
- 八木岡 壁全面に鏡を張ったのはシマで、川崎隆雄さんというコム・デ・ギャルソンのインテリアをやっていた人とやったのが最初だったと思うんです。当時は個面(個別の鏡)が普通だったんです。空間を広く見せる、ダイナミックな空間構成をねらったものです。しかし、一枚鏡には良さ悪さの両面があります。
お客さんには見たいけれど見られたくないというのもあるんですね。美容師さんに見られるのはしようがないけれど、ほかのお客からは見られたくない。でもほかのお客の頭は見たい。それが女性心理なので難しいところなんです。 - ―― 見られる快感もあるかなと思いましたが(笑)。
- 八木岡 自信のある人とかね(笑)。僕としては店全体を見たいんですね。大鏡を使ったほうが全体を同時に見られる。僕のやり方は、アシスタント10人ぐらいを同時に使っていくので、全部見ておきたいんですよ。必然性があるんです。ただ時代的にはちょっとこじゃれて個室系にするところも多いですね。でも、仕事の質みたいなものを落とす可能性もある。僕の仕事のやり方からするとクオリティを保つためには「全体が見られる」ということが絶対条件なんですね。
- ―― 建築的にみると、壁一面全部鏡にできると空間構成の面では新しく感じるでしょうね。建築家だったらやりたいと思いますね。でも、お客さんからすれば、後ろの人とパチッと目が合ってしまうのはいやだということですね。
- 八木岡 そうですね。でも強いていえば後ろの映り込みは我慢するにしても、横の映り込みは気になるでしょう。だから個面になるんですね。美容室の場合、鏡のレイアウトの方法はふたつしかないんです。壁側に置くか中央に置くか。鏡は空間構成のなかで一番微妙なところだと思います。鏡を使い込んでいる人でないと映り込みの計算はそうとうに難しいでしょうね。
- ―― 後は鏡の丈をどのぐらいにするか。
- 八木岡 それはたとえばスカートをはいてる人の前が見えるか見えないかということですね。クロスは用意するけれど、座ったときに膝から上だけ映っていたほうが基本的に落ち着きます。
- ―― 照明はどう考えられていますか。
- 八木岡 これは一番難しいです。僕もヤマギワさんと一緒に商品開発とかいろいろやっていますが、通常のインテリアとは違いますね。
美容室は作業性からいうと影が出るのは困るんです。でも、影をつくらないということは極端に言えば、病院の手術室のようなもので、お客さんの心地よさとは反比例します。手の内側が影になるということは刈り上げの断面が見えなくなるということでもあります。頭の周囲に影が出ると襟足が切れないということになる。断面が見えないということは、厳密に言うと、暗さのなかでも慣れで切っているということなんです。明るければいいというものでもない。床からの反射はあればあるほどいいんですね、形にとっては。とくに短い髪はみなさん均等な長さに切ればいいから簡単だと思われるかもしれませんが、頭は断面によって色味が変わるんです。そうするとプラス色味の調整ということをしなければならない。色味の調整は光が均等に当たらないとわからないんですよ。次にヘアカラー。これがまたもっと重要なんですね。 - ―― 正しい色は何か、ですか。
- 八木岡 はい。色味を見る光源は何か。白熱系か水銀灯かHQIかで色味にすごく差が出ます。結論からいうとミックスしかないんです。私のところはもともとカラーが主体の店なのでかなりその点に対してのこだわりは強いほうだと思います。





