展覧会コンセプト
偶然は用意のあるところに
その核心は明言できないけれど、周縁にて記述されるような存在が建築なのかなと思うことがあります。言葉による形容に、目の前の様相に、手の感触に、その確かさを感じることができるにもかかわらず、しかしその中心にあるべきなにかとても豊かだが掴みきれないようなもの、あるいはそれらの関係全体を、予め計画するということはどういうことなのか、をずっと考えてきたように思います。それ自体は具体でありながら、本来掴みとりたいものはその背後にしか無いような気がする、という建築のこの働きこそ、僕たちを駆り立てるものの正体なのかもしれません。“Chance favors the prepared mind.”は細菌学者ルイ・パスツールの言葉で、幸運を呼び寄せる主体的な力、心の構え、のようなものこそが探していないものを発見する、という意味の格言として知られています。その建築がなにを成しているのかに出合うにはそのような心の準備を必要とするし、それによって探し出していないものを予め探し出そうとする試みを、計画と呼んでいるのかもしれません。そしてこの試みの最中に生み出される図面や模型といった表現もまた、ありうべき建築の核心部分を掴むための手がかりでもあるはずです。
本展は、僕自身がこれからどのような建築の計画を試みようとしているのかという、未だ発見していないなにかを探し出すためのプロジェクトです。これまで関わってきた建築の計画がなにを象(かたど)ってきたのかを、周縁的で断片的なオブジェクトから事後的に探ってみる試みもまた、建築がもつ豊かさへの扉となることを願っています。
西澤徹夫