旅のバスルーム 99

浦一也の「旅のバスルーム」
ドイツ・ミュンヘン
ザ・チャールズ・ホテル

明るいベージュとグレーがあふれる優雅な世界

文・スケッチ/浦一也

  • バルコニーから裁判所などが見える。

  • スリッパ、グレーと白で、男女2種。

  • バスタブの吐水口はオーバーフローと一体化。

 ミュンヘンはきれいな街だとドイツ人の評価も高い。
 いつでも観光客であふれているが、それは街の清潔さや緑の量、人々の気質、ビールや朝に食するというヴァイス・ブルスト(白ソーセージ)のおいしさなども影響しているのかもしれない。アスパラガスは採ってもよい最後の日(*1)に近かったが、とても太い。
 そのミュンヘンでエレガントなホテルに出会った。
 すっきりしたモダンデザインなのだが気になるものがなく、なんともいえない気品があって使いやすい。この「なんとなく……」というのがデザインで一番難しい。「気負い」がないのだ。客室は136室、スイートは24室。すてきなスパがある。
 ホテルのカラースキームでベージュをおもなものにすると、ほとんど反対されない。日本では江戸時代に奢侈(しゃし)禁止令があったため庶民は金色や銀色の代わりにたくさんの茶色とねずみ色をつくり出し、そのせいだともいわれる。しかし、ほとんどすべてのモノは茶色に酸化して朽ちていく過程にあるから、ベージュは共感されて受け入れられやすいのだという説のほうが正しいように思う。
 このホテルはパブリックもゲストルームも明るいベージュ系、グレー系がじつに多様に使いこなされている。あらゆる内装、ドアなどに使われたベージュ、グレー、オフホワイト。金属の金色や木は限られ、ドレープカーテンやクッションなどにキャラクターのある色が効果的に使われている。ソフィスティケートされて抑えられたカラースキームはホテル全体のコンセプトにたくみに貢献していて、うまい。ロッコ・フォルテ・コレクションの経営者でもあるオルガ・ポリッツィ(*2)のデザイン。
 ホテルガイドやチェーンのパンフレット、レターペーパーや封筒などのステーショナリーのグラフィックも、大きさ、形、色、フォント、レイアウトなど、エディトリアル・デザインが行き届いていて気持ちがいい。アメニティはニューヨーク製。
 家具デザインもばらばらなようだが調和している。チェストの引き出しは閉まり方がスロー。配慮を感じる。
 白く清潔感のあるバスルーム。洗面カウンターだけ茶色の大理石。コップは落としても割れないように金属。バスタブは溺れそうなほど大きく、吐水口はオーバーフローと一体化していた。
 レセプション・ロビーもオフホワイト。天井高さは6.2mも。
 隣接する公園を借景としたダイニングルームで朝食をいただく。木漏れ日がきれい。1泊だけの滞在を恨めしく思ったことだ。
 3つのピナコテーク(*3)にも遠くない。その日は15〜18世紀の絵画を集めたアルテ・ピナコテーク(旧絵画館)の棟でたくさんの名作にあらためて感嘆したり、ピナコテーク・デア・モデルネの白い建築を見たり。
 街でバイエルン州の男が身につける革の半ズボンをおもしろがって買ってしまった。ビアホールの従業員のようだがなかなかいい。これで銀座は歩けないが……。

*1/アスパラガス採取:ヨーロッパでは、株生育などの観点から、採取期限を夏至の6月21日前後と決めている国が多い。
*2/Olga Polizzi:1940年代後半ロンドン生まれの女性ホテル経営者。ロッコ・フォルテ・グループの副会長、デザイン・ディレクターとしていくつものホテルを手がけている。
*3/ピナコテーク:美術館・絵画館。ミュンヘンでは、バイエルン王室のコレクションを基にして18世紀までの絵画を収めたアルテ・ピナコテーク、近世の絵画などを収めたノイエ・ピナコテーク、現代美術、グラフィックアート、建築、デザインを広く展示しているピナコテーク・デア・モデルネ(2002年シュテファン・ブラウンフェルス〔Stephan Braunfels〕の設計)の3棟が近接する。

Rocco Forte The Charles Hotel
Add Sophienstrasse 28, 80333 Munich, Germany
Phone +49 89 544 5550
URL www.roccofortehotels.com/
de/hotels-and-resorts/the-charles-hotel/
Profile
浦一也

Ura Kazuya

うら・かずや/建築家・インテリアデザイナー。1947年北海道生まれ。70年東京藝術大学美術学部工芸科卒業。72年同大学大学院修士課程修了。同年日建設計入社。99〜2012年日建スペースデザイン代表取締役。現在、浦一也デザイン研究室主宰。北海道日建設計デザインアドバイザー。著書に『旅はゲストルーム』(東京書籍・光文社)、『測って描く旅』(彰国社)、『旅はゲストルームⅡ』(光文社)がある。

写真/小西康夫

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