似たような建物が並ぶ住宅街に、1棟だけ、つくり込まれた、独特の存在感を見せる家がある。蔵持ハウジングが今年5月にオープンさせたモデルハウス「THINK HOUSE」。落ち着きのあるたたずまいの邸宅はしかし、中に入ると驚きに満ちている。まず中央の中庭を囲んだ八角形平面。「神事にも使われたといわれますが、八角形はもともと日本人にはなじみ深い形なんです。東京駅も八角形でしょう」と蔵持ハウジング社長・蔵持圭一さんはさらりと言う。しかし、このモデルハウスの見どころは、印象深い平面形だけではない。
蔵持ハウジング
代表取締役
蔵持圭一さん
取材・文/市川幹朗
写真/山下恒徳
一度外に出たことで、地元のよさが見える
ルーツをたどれば、戦後、蔵持さんのおじいさんが建設業を起こしたところに行きつくが、現在の蔵持ハウジングは、2003年、現会長で蔵持さんの父・勇さんが立ち上げた会社。蔵持さん自身は、それまで建築とは無縁のアパレル業界で働いていた。いわば流行の最先端を行く仕事で、学生時代からかかわっていたこともあり、早い段階で責任ある仕事も任せられ、海外に買い付けに出かけたこともあったという。ただ、早くから責任を背負った分だけ業界の裏側や、「流行のつくられ方」をのぞき見る機会も多かったのだろう。仕事を辞めて父の立ち上げた会社を手伝うようになったのは、蔵持さん25歳のときだった。蔵持ハウジングのホームページのなかに「茨城の暮らしをもっと豊かに愉しもう」というフレーズがあるのだが、これは都市部で暮らし、また世界を見てきた蔵持さんだからこそ見える茨城の豊かさをアピールしたものといえる。ずっと地元にいては気づかない、ほかの街とは違うよさ、豊かさを第三者的な目で見ているのだ。そんな客観性が、蔵持ハウジングの家づくりにも生かされようとしている。
「数寄」を引き出す独自路線
蔵持ハウジングでは、勇さんが大工出身ということもあり、「新数寄屋建築の大工集団」を標榜してきた。厳選した国産無垢材と確かな技術。施工実績を見ても、和風の住宅が多い。だが蔵持さんは「数寄はスタイルではなく精神」だと言う。それをさらに加速させるためにつくったのが「THINK HOUSE」。
「本来『数寄』は『好き』から来ている言葉で、言い換えれば各自のこだわりです。家を建てるにあたって、自分のこだわりは何か、少し大げさにいえば自分の人生を考え直してもらいたいと思っているのです」
八角形平面だと、中庭を中心にして各階8つ、合計16のスペースが生まれる。各スペースは、必要な機能を納めつつ、そのあり方や存在自体を考えさせる。たとえば、ドレスルームは必要か、クロゼットの衣類の収納の仕方はこれがベストか、パウダースペースとトイレが一緒にあるのも悪くないかもしれない、などなど。つまり「こんな家をつくります」を示すモデルハウスではなく、「どんなことでもできます。一緒に考えます」を示すためのモデルハウスなのである。典型的なのが、自動車のシートに使われていたレザーを張った階段まわり。決してそれがいいといっているわけではなく、「こんなのもアリだと思いませんか」という挑戦的とも思える提案になっている。
「いろいろな家づくりがあると思いますが、つくり手側のロジックではなく、本当にこだわりのある人に向けて、自分たちはもっと何かできるのではないかと思う」
建て主のこだわりに徹底的に付き合っていれば時間がかかる。当然、経営的にはきびしい、と思いがちだが、「そんなに大変なことではない」と、ここでも蔵持さんはさらり。
「いろいろなシステムをはじめとして、ほかの業界のほうが進んでいることはたくさんあります。そういうものをうまく建築業界でも生かしていけばいい」
蔵持ハウジングの活動を、蔵持さんは「住宅業界のベンチャー」だと言う。数は多くなくても、確実に潜在するこだわりの強い建て主との家づくり。建て主だけでなく、業界の固定観念もさらりとかわして、独自の路線を歩みつづける。
本社所在地 | 茨城県牛久市中央5-13-15 |
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電話 | 029-878-3966 |
代表取締役 | 蔵持圭一 |
会社設立 | 2003年 |
従業員数 | 30人 |
事業内容 | 土木建築工事の 設計・施工および管理 土木資材の販売 宅地建物取引業 損害保険代理業 前各号に付帯する一切の業務 |
売上高 | 20億円(2015年9月期) |
TOTO使用機器 | |
キッチン | 水栓金具(CERA) |
浴室 | ハンドシャワーヘッド(CERA) |
洗面所 | 洗面器、水栓金具(CERA) |
トイレ | 便器 ネオレストAH2W 手洗器、水栓金具(CERA) |
Kuramochi Keiichi
くらもち・けいいち/1979年茨城県生まれ。25歳でアパレル業界から転身。父・蔵持勇氏が創業した蔵持ハウジングに入社。2008年より代表取締役。アパレル業界で鍛えたセンスと、祖父以来の伝統的な家づくりで学んだ知識で、新しいこだわりの住宅を提案する。