Tokyo Garden Terrace Kioicho
新旧の風景を楽しめる複合施設
「赤プリ」跡地の新たなランドマーク
取材・文/大山直美
写真/傍島利浩(ポートレイトを除く)
建物外観
「赤プリ」の愛称で親しまれた、グランドプリンスホテル赤坂の跡地に「東京ガーデンテラス紀尾井町」が7月27日、全面開業した。敷地内には、オフィス・ホテル・商業施設・カンファレンスからなる「紀尾井タワー」、旧グランドプリンスホテル赤坂の旧館として使われていた旧李王家東京邸を保存・復原した「赤坂プリンス クラシックハウス」、賃貸集合住宅「紀尾井レジデンス」の3棟が立つ。事業主は西武プロパティーズ、全体の設計は日建設計。
「紀尾井タワー」を中心に、最先端ビルの水まわりを取材した。
30000㎡を超える広大な敷地はかつて大名屋敷があった由緒ある土地で、赤坂見附交差点に通じる紀尾井町通り、赤坂御門跡や「赤坂プリンス クラシックハウス」のあるプリンス通り、弁慶濠、清水谷公園に囲まれ、緑豊かで起伏に富んでいる。
「赤プリ」といえば、旧館だけでなく、雁行した外観が特徴的な丹下健三設計の新館の印象も強かったが、新しいオフィス・ホテル棟と住宅棟のふたつのタワーの外装デザインを手がけたのは、コンペで選ばれたアメリカのコーン・ペダーセン・フォックス・アソシエイツ(KPF)。西武プロパティーズの猪鼻(いのはな)茂樹さんは「敷地のまわりが開けているので、ランドマーク性を重視しました。KPFの提案は重箱を積み上げたようなデザインが和を感じさせ、角ばった形は丹下さんのデザインにも通じると評価が高かったですね」と振り返る。
客室も水まわりも都会の景色を存分に
地上36階建ての「紀尾井タワー」の30〜36階を占める「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」は、宴会場を併設せず、客室数も250室に絞ったホテル。「外資系ホテルと競合できるような宿泊特化型のホテルを目指しました」と語るのは、西武プロパティーズの篠塚正博さん。
インテリアデザイン会社は、ホテル日本初進出のロックウェルグループ・ヨーロッパを選定。彼らが打ち出したデザインコンセプト「Levitation(浮揚感)」と「Framedkaleidoscopic view(額縁で切り取られた万華鏡のような景色)」を象徴するのが、開口部に面したデイベッドだったとのこと。都会の宙に浮いているような1室の窓ぎわに横たわり、大開口のフレームで切り取られた景色を楽しんでもらおうという趣向だ。こうしたデザイナーからの提案を生かしながら、ホテル設計にあたった日建設計の皿海(さらがい)博章さんはこう語る。
「ここは四方にさほど高層ビルがなく、景色が非常にいいので、開放的な非日常を味わっていただきたいと考えて設計しました」。実際、客室の多くの窓辺にデイベッドが配されているという。
今回見学したのは、33階の「ザ・プリンスギャラリー スイート」と30階のスパ。スイートは中央に水まわりのコアをまとめ、リビングと寝室をほどよく分けたプラン。どちらの部屋からも都会の風景が存分に眺められる。
水まわりはトイレを独立させ、浴室に広い洗い場を設けた点が特徴的。「洗い場はしっかりとって、シャワーブースも一体にする、それが当初からのイメージでした。外国人にも日本の文化を感じてもらいたい想いがありましたね」と篠塚さん。一方、スパのトリートメントルームも浮揚感満点。窓ぎわのコーナーにはデイベッドが置かれ、眼下の景色を堪能しつつ施術後のひとときが過ごせる。さらに、トイレも大開口に面しており、「開放的すぎてみなさんに驚かれます」とは皿海さんの弁。
豊かな地形や自然を生かした商業ゾーン
次に、1〜4階の「紀尾井テラス」は、飲食店中心の商業ゾーン。ふたつのタワーの足元をつなぐように、敷地南側の弁慶濠と平行に配している。「紀尾井町通りとプリンス通りには約20mの高低差があるため、この立地特性を生かすことが課題だった」と猪鼻さん。設計を担当した日建設計の山内暢さんは「普通はインナーモールにしがちですが、ここでは高低差を生かして各レベルの寄り付きに開口部を設けたアウトモールにし、内と外を一体にすることで、どのフロアを歩いていても外の自然、時間や季節の移ろいが感じられるようにしたかった」と言う。
商業ゾーンのインテリアデザインは丹青社が担当。同社の川崎喜一郎さんは次のように語る。
「外の環境と一体化した『道』のような施設をつくり、各フロアでいろいろな景色が楽しめるようにと考えました。トイレについても、各階で用いた素材やデザインの意匠をそのまま引き込んでいます」
1階は赤坂見附側からアクセスする玄関口にあたるため、明るくはなやかなイメージ。一方、3階は上質な飲食店が集うため、落ち着いたダークな色調でまとめている。トイレもそうした雰囲気を踏襲しており、なかでも印象的なのは3階の女子トイレ。なんとトイレの内部に、カーペット敷きでソファが置かれた、ガラス張りの休憩コーナーを設けている。パウダーコーナーの順番待ちも想定したというが、女性の滞在時間がいっそう長くなりそうだ。
配置計画の見直しでオフィスのトイレにも明るさを
最後に、オフィスの基準階のトイレを見学した。男女トイレとも白を基調にしたシンプルで清潔感あるインテリアだが、特筆すべきは女子トイレが開口部に面している点。山内さんによれば、当初は男女とも両サイドに抜けられる窓のないトイレを想定していたが、設計途中で女子トイレは外壁に面した配置に見直したという。
実際に見ると、手前の洗面とパウダーコーナーの間仕切り壁を低く抑えることで圧迫感が軽減され、通路を兼ねた奥の窓ぎわの開放感が高まっている。「自然光が入るだけで気持ちがいいし、天井の抜けによって広がりも感じられる。やってよかったなと思います」と山内さん。篠塚さんも「ミラーの機能を損なわない間仕切り壁の高さと天井の抜けによる開放感の両立については、けっこうスタディしました。結果的に、ブースを出た後、手を洗ってパウダーコーナーへ行くという回遊動線もうまく整理できました」と出来ばえに満足そうだ。
「東京ガーデンテラス紀尾井町」ホテル階(30-36F) ザ・プリンスギャラリースイート
「東京ガーデンテラス紀尾井町」ホテル階(30-36F) スイス・パーフェクションスパキオイ
「東京ガーデンテラス紀尾井町」商業階(1-4F) 紀尾井テラス3F
Shinozuka Masahiro
西武プロパティーズ
都市開発部マネジャー
Inohana Shigeki
西武プロパティーズ
都市開発部アシスタントマネジャー
Saragai Hiroaki
日建設計
設計部門 設計部 主管
Yamauchi Toru
日建設計
設計部門 設計部
Kawasaki Kiichiro
丹青社
CS事業部デザイン統括部デザイン6部 部長
チーフデザインディレクター