広さの感覚は奥行きよりも幅に左右される

 ところで、最後にトイレの設計で苦労した点に話がおよんだ際、安達さんが話したエピソードが印象的だった。
 今回のトイレづくりにあたり、ビル管理企画部では、これまでに自社が手がけた丸の内界隈のオフィスビルのトイレをすべて実測してまわるとともに、ブースの幅と奥行きの感覚的な広さをあらためて体感したという。その結果、たとえば丸ビルのブース幅は壁芯で900mmに対し、新丸ビルは940mmで、奥行きは丸ビルのほうが長いにもかかわらず、新丸ビルのほうが広く感じられるなど、奥行きより幅のほうが数センチの差でも受け取る感じが大きく左右されることがわかったとのこと。
 こうした調査をもとに出来上がったこのビルのオフィストイレのブース幅は、片端を除くすべてについて壁芯で930mmを確保。男女とも、ブース自体の数に余裕をもたせながらも、限られたスペースの中で各ブース内空間を犠牲にせず、ゆったりとした空間を確保することを目指したそうだ。
 こうした細やかな配慮をどれほどオフィスワーカーたちは意識しているのだろうか。テナント入居後の感想はと問うと、「とくにコメントは聞いていませんが、それがもしかすると一番いい感想かもしれません。トイレに対して聞こえてくる声の大半はクレームですから」と笑う高田さん。
 つくり手の地道な努力によって、丸の内界隈のオフィスとトイレの快適性は今後10年間も着実に向上していくにちがいない。

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