さて、外部を案内してもらおう。
地面から床面までは1,130mm。山とのあいだを流れる小川からの湿気対策で建物を浮かし、同時に建物は低くしたい。「絶対的なプロポーション」と与条件とを整合させるべく、寸法調整を繰り返して床高と内法高さを決める。そこではおよそ5cm単位で上下させてスタディを繰り返したという。確かに天井高が5cm違うと、部屋の雰囲気がずいぶん変わることはよく経験する。
再び室内に戻ると、妙なことに気づいた。この空間がどのくらいの広さをもつのか、まったく意識していなかったのだ。実際には15坪という極小の空間なのだが、窮屈さは感じない。
岸本さんは、「ちょっとずつ小さくつくること」を考えているそうだ。
そう言われてみると、室内のスケールはわずかずつ小さいようなのだが、身体にフィットした空間はむしろ心地よい。
こちらには外国人のお客さまも多く、彼らはみな、この空間に「日本的」なものを感じて興味を抱くと聞いた。そうした感想は、天井の構成も含めたそのスケール感に拠っているのだろう。畳はなく、柱梁を現しにせず、囲炉裏のもつ強い求心性を避けるため方形屋根の頂部も偏心している。じつは訪問する前、この偏心が空間のバランスを崩しているのではないかと思っていたのだが、杞憂だったようだ。一般にいう和風とはだいぶ趣の異なる住宅だが、なるほど「和」を感じる。
日暮れどき、黒い板壁に背をもたれてお茶をご馳走になっていると、気分がほぐれていく。これはきっと、ゲストハウスとして正解なのだ。囲炉裏のまわりでの宴がたけなわとなる頃、この小さな空間を夜のとばりがやさしく包んでくれるにちがいない。