大きな引き戸を開けて中に入った途端、印象は一変する。屹立する大小4つの黒い箱。屋根勾配に沿った天井面と、その先にぐっと低く水平にシナ合板を張った軒。杉板張りの床。そしてそれらのあいだから強烈なコントラストで外部の緑が目に飛び込んでくるのだ。視線は下向きに、そして建物の四隅に引き寄せられる。
とくに、床から1,650mmという高さで水平に全周をめぐる軒天が、空間を強く支配しているように感じる。立っていると、軒天が見え隠れするような微妙な高さ。しかしここにいると、すぐに腰を下ろして座り、コーナーに抜けていく景色を楽しみたくなる。その寸法はどこから導かれているのだろう。
「人の居場所としての、相対的なプロポーションがある」と岸本和彦さんは言う。ここでは、座ったときの目線でそれが決められているというのだ。
この住宅はゲストルームとして計画が始まり、終の住処を意識したものに変わっていった。そこで考えたのは、シェルターとしての壁をしっかりつくり、領域を守ることだったという。景色にばかり目が行くのだが、囲炉裏の置かれた中央のスペースについていえば、壁と抜けとの比率は6対4で、「壁勝ち」の空間になっているそうだ。納戸のボックスに納められたフラッシュ戸を引き出し、就寝スペースをつくるとさらにその感は強まる。
ところが各コーナーへ歩いていくと、その比率は逆転する。おだやかな季節にガラス戸を引き込めば、そこには隅柱もなく、水平に延びた軒天と床の先からモミジなど自然の風景が流れ込んでくる。
4つの箱を配置したワンルームという、きわめてシンプルな平面。しかし、どうも知らぬうちに自分好みの居場所を探しているようで、先ほどからウロウロと歩きまわっている。