特集1/インタビュー

Part 6

原点としての光、視線「矩形の森」2000

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―― では最後に、デビュー作ともいえる「矩形の森」のお話をうかがいます。
五十嵐 このときは、ひとつには、家具と空間がうまく融合して、雑多なものがあっても成立するインテリアはできないかと考えました。そしてその居場所を生み出す拠り所となるのは、柱だと思ったんです。柱はもともと邪魔なものですけれど、あるぎりぎりの狭さになると無視できない状態になります。そうしたときに、いろんな居場所がつながっていくワンルームができるのではないかと。ここでは、1800mmグリッドで柱を配しています。また、できるだけ自由な空間にしたかったので、給排水などの動かせない設備は、下水接続に最も近い西側に寄せてしまいました。それ以外のグリッド内は相当自由に動けます。
 ほかに、天井高を2200mmに抑えたのは、水平方向に視線が延びていく空間にしたかったからです。それと、気積を小さくして熱負荷の効率をよくすること、サッシの最大寸法というのもありました。
―― 半透明の壁は、ペアガラスをポリカーボネイトの小波板で挟んでいるのですね。
五十嵐 そうです。こういう拡散光という状態を意識したのは、直射光というのは人間にとって快適ではない光だからです。そのためにカーテンを閉めたりしますが、建築家としては設計の根本的なところで解決したいと思いました。その考え方はかなり一貫しているような気がします。この方法だとトリプルスキンになるので、断熱性能もいいんです。とくに室内側はガラスとポリカーボネイトとのあいだでコールドドラフトが起きるから、内部は冷気の影響がほとんどありません。
 もう5年以上前ですが、塚本由晴(*3)さんが佐呂間に来てくれたときに、すごく勇気づけられる言葉をいただきました。君がやっている条件というのは、天秤にたとえると、天秤の向こう側にのせる重りのバリエーションがすごく豊富なんだ。だからそれに釣り合わせるべく、設計のバリエーションも同じくらいたくさん生み出せる可能性がある、と。その天秤の条件は都市でも北海道の地方でも同じことがいえるとは思いますが、思考のレベルで非常にいいきっかけになりました。その言葉は今でも重要で、さっき「迷いたい」と言ったのは、向こう側の重りを決めると釣り合わせるものも決まってしまうということなんです。与条件をなるべく広く受け入れて、何を解くべきかを探そうというスタンスをとる。視線の問題は、そうした構成を考えつつ、同時に思考しています。建築というのは、目で見て確認すること、それを脳が判断することが大きなウエイトを占めていると考えるからです。

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