パネルひとつで操作できるスマートタッチ水栓を開発。すっきりと「穏やかな上質」を浴室に実現
8月21日から発売されるシステムバスルーム「シンラ」は、6年ぶりのフルモデルチェンジ。パネルひとつで操作できる「スマートタッチ水栓」、及び薄型の「お掃除ラクラクアクセントカウンター」が取り入れられ、「穏やかな上質」をかなえるデザインと使い勝手が実現しました。デザイン担当の北林 甲子郎さん、浴室担当の石間 敦さん、水栓担当の三重野 豪さんに、その開発の経緯を伺いました。
2024年8月1日
2024年9月20日
#浴室プロモーション
#水栓プロモーション
性別を問わず、スキンケアへの意識が高い人が増えているようです。毎日使うシャワーにも、より高い性能が求められるようになりました。新発売のシャワーヘッド「コンフォートウエーブシャワー3モード(ミスト)」 には3つのTOTO独自のシャワーモードを搭載、うちひとつが今回紹介する新しい吐水モード「ナチュラルケアミスト」です。肌に優しいミストが汚れをしっかり落とす。実はこの「優しさ」と「汚れ落ち」は、とても難しいバランスで成り立っているんです。商品企画を担当した桐原麻衣子さん、開発を担当した近藤沙織さんに、実現までの経緯を伺いました。
機器水栓商品企画部 機器水栓商品企画二グループ 企画主査
桐原 麻衣子 さん
熊本大学大学院・自然科学研究科で電気化学工学を専攻。2007年に入社後、浴室・キッチンの水栓開発業務に従事。2017年から商品企画部門へ異動し、2022年からミストシャワーの商品企画に携わる。
機器水栓開発第一部 機器水栓開発三グループ 技術主査
近藤 沙織 さん
北九州工業高等専門学校・電子制御工学科を専攻。2008年に入社後、10年にわたり電気系水栓の商品開発に従事。2017年からは主に海外向けの商品開発を担当。2021年9月より、ミストシャワーの開発に携わる。
「ナチュラルケアミスト」の開発のきっかけは?
桐原さん(以下、桐原) 社内外からミストシャワーの要望が高まって、これはお応えしなければならないだろう、ということになったんです。ただ、開発を始めるにあたって、そもそもなぜミストシャワーが求められているのかを、改めて探らなければならないと考えました。すでに世の中にはミスト搭載のシャワーはありましたが、お客様はミストシャワーのどんな効果を期待して手に取り、どんなところに共感して使っているのか。その本質を掴まなければ、きちんと商品開発に向き合えないと思ったんです。
そのために、相当なリサーチを重ねたと伺いました。
桐原 はい。まず、男女300人を対象にアンケート調査を行いました。シャワーだけに限定せず、普段の健康や美容で意識して実践していること、平日と休日の過ごし方の違い、浴室や洗面所にいる時間はどのぐらいで、そこで具体的に何をしているかまで、幅広く伺いました。
その中から、さらに幅広い年代の女性たちにお声がけし、少人数のグループに分けて何回もヒアリングを行いました。お風呂で何をしているかというのは、かなりデリケートな話題ですが、みなさんとても率直に語ってくださって「話し足りない」という声が上がるほど盛り上がりましたね。
リサーチを通じて、どんな発見がありましたか?
桐原 いろいろありましたが、大きな発見の1つは、肌に与える刺激を気にしている人が予想以上に多いことでした。肌をこすらないように泡で包みこむように洗うだけでなく、洗顔後もタオルの雑菌や摩擦を気にして、水分をペーパーで押さえて取るとか。シャワーも直接当てると肌への刺激が強いので、手で受けたり、水を汲み上げて洗ったりしているんです。一方で、肌の汚れをきちんと落としたいという思いも強い。洗顔前に身体を温めて汚れを浮かび上がらせてから洗う、といったように皆さんさまざまな工夫をしながらお肌の手入れをしているという意見も聞かれました。
こうして、「キレイに洗いたい、だけど肌への刺激は少なくしたい」という願いが共通項として浮かびあがってきました。これをシャワーに置き換えると「洗浄力」と「低刺激」が重要なキーワードになるととらえました。
洗浄力と低刺激を両立させるために、ミストシャワーが求められている?
桐原 ミストは肌当たりが柔らかいので、顔に直接当てられますし、「ウルトラファインバブル」と呼ばれる非常に微細な泡を含むミストは、従来の粒の大きなシャワーモードに比べて肌表面の汚れをきめ細かく洗えるということもわかってきました。ただ、その一方で、ヒアリングや実際にミストを使用したお客様の声からも「ミストシャワーは冷たく感じる、寒い」という不満の声があることもわかってきました。
ミストシャワーならではの課題もあったわけですね。
近藤さん(以下、近藤) ミストは一つ一つの粒が小さいので、温度が下がりやすく、肌に当たったとき、どうしても冷たく感じてしまいます。粒の大きさを大きくすれば温かくなりますが、そうすると洗浄力が落ちてしまいます。水の流れを速くすれば洗浄力は改善できますが、今度は肌への刺激が強くなります。
また、これとは別に、粒が小さく流速が遅いと流量が少なくなり、給湯器によっては着火しなくなるという問題もありました。
相反する課題が重なっている...。
桐原 長く水まわり商品を提供してきたメーカーだからこそ、美容に嬉しい効果だけではなく、家族みんなにとって使いやすく、満足できるものにしなければなりません。
近藤 「洗浄力」「肌当たりのやわらかさ」「温かさ」、そして給湯器がきちんと機能する「流量」。開発のポイントは、この4つの要素が最適なバランスで成立するようにチューニングしていくことでした。
4つの要素の目標値はどうやって設定したのでしょう?
近藤 洗浄力については、目に見えない汚れをどう目標設定するかが難しいポイントでした。社外有識者の知見をいただきながら、実使用に近い試験条件で疑似皮脂の除去率を測定、数値化しました。他社とも比較しながら、最終的に目標値を設定していきました。完成品では、通常身体を洗うときにお使いいただく既存の「コンフォートウエーブ」モードに比べて約1.3倍の除去率を実現しました。
温かさについては、使用頻度が高い湯温40度に設定し、手でシャワーを持って顔に当てたときに冷たく感じにくい温度を目標にしました。
流量については、ミストは他モードに比べて水量が少ないことが注意点となりました。使用時に「お湯にならない」ということがないように、給湯器の着火条件も踏まえて目標を設定しました。
肌当たりは測定が難しそうですね?
近藤 肌当たりは、手で触ったときと顔に当てたときで感覚が違います。そこで、実際に色々な方に試作品を顔に当てて使っていただいて「気持ちよく顔に当てられる」から「とても顔には当てられない」まで、4段階で評価してもらいながら探っていきました。
これらの要素は、製品のどんな機能によって決まるのでしょうか。
近藤 4つの要素は、「ミストの粒の大きさ(粒径)」と「流速」と「流量」で決まります。
「粒径」は小さいほど肌当たりがよく、洗浄力は高まります。逆に「粒径」が大きいほど、温度は温かく、流量は多くなります。
「流速」は、速いほど洗浄力が高まり、遅いほど肌当たりがやわらかくなります。
これらをトータルで見た時に全ての要素を満足できる「狙いのミスト吐水領域」にするための粒径・流速の範囲を決めました。
狙った粒径・流量・流速を実現するために、相当な数の試作と検証を重ねたそうですね。
近藤 まずは、「どうやってミストを発生させるのがいいのか」を、ミストが出る色々な商品を分析し、シャワーへ搭載する上でどのような構造が最適なのか決めるところから始めました。そして、ノズル単体の寸法や形状、噴射する角度を検討し、さらにそれをシャワーヘッドに配置するときの数や間隔、配置を探りましたね。何度も何度も試作を繰り返して、最終的に200パターン以上はつくったと思います。
試作品はどうやって検証するのですか?
近藤 工場内に、水圧や水量を調整しながら実際に吐水できる実験場があるので、まずそこで試します。 最初は自分たちの手で触れて試しますが、回数を重ねるとだんだん感覚が鈍くなってくるので、同僚を呼んできて協力してもらったりしましたね。手触りはもちろん、ミストや水流の見た目の美しさも大切です。
桐原 実際にシャワーを浴びられるモニタールームもあります。ここでは、モニター被験者にシャワーを浴びてもらって、その場でさまざまな浴び心地を評価してもらいました。
一番難しかったのは?
近藤 全部難しかったですが、特に苦労したのは流量の確保でした。肌当たりをよくするためには粒径を小さくしたいんですが、そうするとどうしても流量が下がります。また、ミストの粒が小さいと、より周囲の空気に触れる面積が広く、冷えやすくなってしまいます。
困り果てて一度、シャワーヘッドの上半分は粒径の小さいミストで「肌当たりの柔らかさ」を狙い、下半分は粒径の大きいミストで「流量・温かさ」を確保するような、少しイレギュラーな試作品をつくってみたんです。そうしたら、いつもモニターに協力してくれる先輩から「こんな(変な)ミストなら、いらない」と厳しいコメントがありました。そのことが、「やはり、ミストそのものをしっかりつくり込まなければいけない」と思い直すきっかけにもなりました。
最終的には、ユーザーが多少流量を変えても安定したミストが出るようになったそうですね。
近藤 一般的なミストシャワーの使用流量は1分あたり3〜5リットルの範囲です。そこで、モニタールームでは3リットルから0.5リットル刻みで流量を調整し、おのおのの段階で肌当たりをチェックしてもらいました。完成品では、ユーザー側で流量を変えても肌当たりに大きな変化はなく、快適に使える範囲が広いです。また、ミストの流量にもこだわってつくったこともあり、モニター者からは他の吐水モードへ切り替えた時の流量差が気にならないという声もいただいています。
桐原 流量は本当に難しい問題なんです。このシャワーはミスト単体ではなく3つのモードがあるので、モードを切り替えても流量が大きく変わらないというのは、使う人にとって嬉しいTOTOらしい配慮だと感じます。モードを切り替えたときに流量が多すぎたり少なすぎたりすると、その都度水栓本体のレバーで調整しなくてはならなくて、使い勝手が悪くなってしまうからです。
3つのモード間のバランスも考えなくてはならないんですね。
桐原 3つのモードを使い分けることで、より快適にお使いいただけます。今回のヒアリングでは「本当はゆっくり湯船に浸かりたいけど、そんな余裕はなかなかない」というお声がたくさんあったんですよ。これにお応えできるのが、既存の「ウォームピラー」というモードです。
近藤 ウォームピラーでは、お湯が体を包み込むように流れます。湯船に浸かれないときも、すばやく体を温められますし、体が温まれば汗が出るので、汚れが浮き上がりやすくなります。ですから、湯船に浸かれない日などはウォームピラーで汚れを浮かせ、ナチュラルケアミストで洗い流す、といった使い方がお薦めです。
納得できる商品が完成したようですね。今回の開発を通じて感じたこと、今後に活かしたいことがあれば教えてください。
近藤 試作の過程では、ほんの少し寸法を変更しただけで吐水状態が変わってしまい、困惑の連続でした。けれども最終的には、製造工程で発生するバラツキを含めても、粒径・流速・流量すべてが目標値に納まるところまでつくり込むことができました。求められる性能をどれもあきらめず、根気よく追求することの大切さを痛感しましたね。
桐原 私たちはこれまで、「洗う」や「温まる」といったお風呂の基本を突き詰めてきましたが、今回のミストシャワー開発で、これまでとは違う角度から「洗う」「温まる」ことの価値を見直すことができたと思います。お客様の要望や技術の進化によって、これまでの商品を見つめ直す、とてもいいきっかけになったのではないでしょうか。
開発前に行ったアンケート、ディープヒアリングは、すでに「あるもの」に対しての評価ではなく、これまでに「ないもの」を探しにいく取り組みでした。シャワーにこだわらず、幅広く意見をいただきましたから、今後の商品開発に活かせるヒントがたくさん得られたと思います。
編集後記
男女300人へのアンケートやヒアリング、そして200パターン以上の検証など、お二人を含め多くの方が関わり丁寧に開発していったことが伝わってくる、TOTOの新機軸の商品「コンフォートウエーブシャワー3モード(ミスト)」。スキンケアの要素を取り入れつつ、お湯に浸かることでしか得られないと思われた「温まる」といった機能を併用できる点などから、開発というよりも、「家族全員」を配慮した新たな入浴方法の提案そのもの。さまざまな住居スタイル、生活スタイル、そして高齢化社会を背景に、多くの活躍の場がありそうです。
編集者 介川 亜紀
取材・文/萩原 詩子 写真/ゼネラルアサヒ(特記以外) 図版・資料/TOTO 構成/介川 亜紀
2024年9月20日掲載
※『快適はヒトの手から~開発ストーリー~』の記事内容は、掲載時点での情報です。
次回予告
次回はユニークな名称の洗面所収納、「奥ひろし」。洗面台下の限られた空間に、その名の通り、使いやすく広々とした収納スペースを確保できたのはなぜなのか。開発にまつわるストーリーをお伺いします。
2025年1月中旬公開予定。ご覧いただきまして、ありがとうございます。
これからの『開発ストーリー』を充実させたく、皆さまのお声をお聞かせください。
お気に入りに保存しました