パネルひとつで操作できるスマートタッチ水栓を開発。すっきりと「穏やかな上質」を浴室に実現
8月21日から発売されるシステムバスルーム「シンラ」は、6年ぶりのフルモデルチェンジ。パネルひとつで操作できる「スマートタッチ水栓」、及び薄型の「お掃除ラクラクアクセントカウンター」が取り入れられ、「穏やかな上質」をかなえるデザインと使い勝手が実現しました。デザイン担当の北林 甲子郎さん、浴室担当の石間 敦さん、水栓担当の三重野 豪さんに、その開発の経緯を伺いました。
2024年8月1日
2023年5月18日
#浴室プロモーション
1日の疲れをゆっくりと癒したい。わが家のバスタイムにそんな思いを持つ人も多いのではないでしょうか。TOTOの「シンラ」は、独自のデザインとテクノロジーの融合によって、上質で心休まる穏やかな時間をもたらす最高級システムバスです。特に好評なのが、たっぷりのお湯で肩を包みこみながら温める「肩楽湯」、ランダムな曲線で円を描くように噴出された水流が腰に心地よい刺激を与える「腰楽湯」という2種類のテクノロジー。極上のリラックスタイムを演出する肩楽湯、腰楽湯の開発に携わった川原健一さんに、癒しの秘密を聞いてみました。
シーズ開発グループ 主任技師
川原 健一 さん
岡山大学大学院で機械工学を専攻。1996年に入社。給湯機商品の開発に約8年携わった後、2004年に浴室開発部に異動。シンラでは「楽湯」の開発リーダーを担う。
「肩楽湯」「腰楽湯」、見るからに気持ちよさそうですね。開発のきっかけは?
川原さん(以下、川原) 「シンラ」はもともと当社の最高級システムバスという位置づけで、光と素材にこだわって「心地よい空間」を目指した商品です。大変ご好評をいただいていたのですが、近年の当社の調査では、さらに一歩進んで、お風呂に入る時間そのものを楽しみたい、半身浴などでゆっくり過ごしてリラックス、リフレッシュしたい、というお客様のニーズが明らかになってきました。そこで、シンラのリニューアルの際に、もっとお風呂の時間を満喫していただける機能を新たに加えようという運びになったのです。
この機能には、遊び心も感じます。
川原 日本でもスーパー銭湯が人気ですよね。私も、趣味とリサーチを兼ねてよく行きます(笑)。岩盤浴や打たせ湯、サウナ、寝湯…いろいろな種類のお風呂があって大好きです。日本の自宅のお風呂でもあんなにリラックスして過ごせたら最高ですよね。開発にあたって困難なことはたくさんありましたけど、そのようなお風呂への思いが私たちの開発に向けたエネルギーになったように思います。
まるで海外の豪邸のジャグジーにあるような機能ですね。
川原 実はこの「肩楽湯」「腰楽湯」の原型となるような機能は、10年ほど前の当社の海外向けのバス商品に搭載していたんです。ただし、日本のシステムバスに取り入れるには、いくつかの難しい問題がありました。
ひとつは、たっぷりのお湯を肩からかけるためには、大流量が循環できる大きなポンプで浴槽のお湯を吸い込んで吐き出すことが必要なのですが、海外のゆとりある浴室と違って、日本の住宅の浴室ではどうしてもスペースが限られてしまい、大きなポンプを収納できないのです。
大流量のお湯を循環させたいけれども、大きなポンプは日本の浴室にはおさめられない。この難問はどのように解決したのですか?
川原 当社の総合研究所からの提案で、「ジェットポンプ」という技術を活用しました。水を速い流れで細い管に通すと、その勢いで管の入り口周辺の水も巻き込んでいく現象が起こります。つまり、ポンプで押し出した水の量より、管から出てくる水の量が多くなるんです。このジェットポンプを取り入れることで、ポンプそのものの吐水は小さくても、大流量の吐水が可能になりました。実は、当社のパブリック用フラッシュタンク式大便器にも搭載しています。
ポンプから吐水されたお湯がジェットノズルで速い流れ(青い矢印)となり、その勢いで周辺のお湯を巻き込み(赤い矢印)、双方が加わって大流量のお湯(緑の矢印)が吐水されます。
社内にあった技術をうまく活かしたのですね。
川原 ポンプを浴室におさめるめどが立ってからは、設置後にメンテナンスしやすくするにはポンプをどう配置したらいいか、またどうすれば現地で効率的に組み立てられるのか、といったことも考慮して部品の設計やレイアウトを検討していきました。昔はひとつずつ試作品をつくって確かめましたが、昨今はパソコンで3Dモデルをつくって検証できるので、時間がより有効に使えました。
どのくらいのお湯が流れるのですか?
川原 肩楽湯で毎分65L、腰楽湯で毎分70Lです。これだけの大流量なので、以前は肩か腰、いずれかしか吐水できなかったのですが、ジェットポンプを取り入れたおかげで同時に毎分135Lのお湯を流せるようになりました。
流すお湯の量はどのように決めましたか?
川原 私たち開発メンバーが毎日、検証用のお風呂に入りました。肩と腰に当たるお湯の量を変えていって、どのくらいが適量なのか、自分たちの体を張って確かめました(笑)。
お仕事とはいえ、大変そうですね…。
川原 肩にかかるお湯の量って多すぎても落ち着かないんですよね。かといって少なすぎると物足りない。一方、腰に当たるお湯の場合は、少々弱めでも、さするような感じで意外と気持ちいいということもわかりました。ご家庭では家族みんなが入浴しますから、それぞれ自分の体格や好みに合わせることができるように、肩、腰とも3段階の流量に切り替えられるようにしました。きっと皆様に満足いただけるはずです。
これまでにない機能が加わったシンラですが、見た目にも違和感のない、きれいなデザインですね。
川原 人間工学をもとに入浴する人をやさしく包み込み、支える「ファーストクラス浴槽」を採用しています。身体にかかる力が分散され、身も心もリラックスできます。この形状を妨げないよう、ヘッドレストの部分に吐水口をおさめました。
吐水口もすっきりしていますね。
川原 この吐水口は上下でパーツを重ね合わせてできているのですが、従来は止水用のパッキンを挟んでネジで留め付けるところ、今回はステンレスの鉄線を合わせ目に入れて、電気を通して加熱し、溶着するという方法を採用しました。ネジやパッキンを使わない分、スリムにできるメリットがあるからです。
吐水口から滝のように流れるお湯そのものもきれいですよね。
川原 ポンプから押し出したお湯は切換え弁で肩と腰に分かれて流れるのですが、そのまま肩のほうに出すと勢いが付き過ぎてしまい、きれいな滝状にはなりません。そこで吐水口の中に溝や段差を付けて勢いを整え、きれいに流れるようにしています。
見えない部分でそんな工夫をしているのですね。
川原 お湯の流れをどのように制御するか。それは、流体力学という分野になるのですが、パソコンでお湯の動きを解析して吐水口の内部構造に反映させています。ここは総合研究所が解析してくれました。本当は内部に網状のパーツを入れてお湯を通せばそれだけで勢いは整えられるのですが、お風呂ですから皮脂汚れや髪の毛などが詰まってしまう恐れがあるので、その方法は避けました。
お風呂に入って肩にお湯を浴びているときには、お湯の流れの美しさは見えないと思いますが、なぜそこまでこだわったのですか?
川原 シンラは、「心地よい空間」を目指したシステムバスです。浴槽の形状も独特な美しさがあるので、せっかくですからお湯そのものもきれいに流したかったのです。吐水口にはLED照明を設置しましたが、これも肩楽湯を浴びているときには見えません(笑)。でも、私たちは毎日(検証で)入浴していて、"これ、お湯の流れはきれいな方がいいよね"、"LED照明、あったほうが楽しいよね"と思っていました。そういうエンターテインメントとしての機能もあったほうが、豊かな入浴時間を味わえる。そう確信しています。
新しい機能を開発するうえで特に気を付けたことはありますか?
川原 安全性です。肩楽湯、腰楽湯は、浴槽のお湯を循環させて吐出口から流している機能です。そのため、浴槽内にはお湯を吸入する口もあります。入浴中のお子様が髪の毛を吸い込まれたりしたら、大変な事故につながりかねません。この吸入防止にはかなり気を使いました。
従来はどのように防止していたのですか?
川原 一般的には、吸入口にセンサーを設置して、髪を吸い込んだら圧力が変わるのを検知して安全停止するといった仕組みを採用しています。さらに、センサーがうまく機能しない場合も想定し、対策しなくてはなりません。吸入口に付けたカバーの穴を小さくしたり、配置や形状を変えてみたりもしたのですが、うまくいきません。最終的に2つある吸入口からのパイプをつなげるようにバイパスを設けることで、ひとつの口が詰まったら、もうひとつの吸入口からお湯を吸い込むようにしました。こうすれば詰まっている方の吸入力は上昇しないので事故も防ぎやすくなります。
もし吸入口がふたつとも詰まってしまったら?
川原 肩楽湯のノズルから空気が入ってポンプがお湯を吸い上げられなくなり、異常を検出して安全停止します。空気とお湯の自然な動きを利用しているので、故障することもありません。この仕組みにたどりついてようやく安全性が確保できました。
綿密に検証されたのですね。
川原 開発チームでお客様の使用シーンを想像していたのです。たとえば年配のお客様がシンラを購入して、お孫さんに自慢したりもするだろうな、と。お子様ですからお風呂に潜ったりして遊ぶでしょうね。そんなときに髪の毛を吸い込まれたりしたら大変です。
なるほど。お客様の立場になって考えていたのですね。
川原 この肩楽湯、腰楽湯はオプションではなく、シンラに標準搭載※される機能です。いろいろなお客様が使用することを想定しなくてはいけません。このバイパス構造で吸入のリスクをクリアできると確認できたときには、ようやくプレッシャーから解放された思いがしました。
※ シンラ Cタイプはオプション
お客様の反応はいかがですか?
川原 「以前はシャワーだけだったが、楽湯機能が気持ちいいので浴槽に浸かって入浴時間が延びた」「お風呂嫌いだった子どもが入浴を誘ってくるようになった」「入浴が毎日の楽しみになった」など、嬉しい声をいただいています。お客様が魅力を感じ、購入した後も満足していただけるアイテムになったなと手ごたえを感じています。
編集後記
身体の清潔を保つだけでなく、1日の疲れをいやすリラックスの場として進化を遂げている「シンラ」。お湯の流れや光など、繊細な調整と検証が重ねられ、つくり上げられているのですね。最新の機器を取り入れながら、そこには昔ながらの日本の丁寧なモノづくりの姿勢が継承されているようです。安全対策も徹底され、子どもから高齢者まで安心して入浴できるのも嬉しいこと。確固たる技術に裏打ちされた安心・安全は、シンラでのバスタイムをますます楽しく、心からくつろげるものにしてくれるでしょう。
編集者 介川 亜紀
取材・文/渡辺 圭彦 写真/後藤 徹雄 構成/介川 亜紀 2023年5月18日掲載
※『快適はヒトの手から~開発ストーリー~』の記事内容は、掲載時点での情報です。
次回予告
昨今、手洗い、歯磨きにとどまらず、ヘアメイクの場としても欠かせない洗面化粧台。それだけに、顔を照らす鏡周りの照明はますます重要になっています。そこで、今回は洗面化粧台のLED照明にスポットを当て、開発担当者に話を伺います。自然な顔色を実現し、ヘアメイクにも向くような光がどのように生み出されたのかなど、初公開の逸話もお楽しみに。
2023年8月1日公開予定。ご覧いただきまして、ありがとうございます。
これからの『開発ストーリー』を充実させたく、皆さまのお声をお聞かせください。
お気に入りに保存しました