2024年8月1日
#浴室プロモーション
8月21日から発売されるシステムバスルーム「シンラ」は、6年ぶりのフルモデルチェンジ。パネルひとつで操作できる「スマートタッチ水栓」、及び薄型の「お掃除ラクラクアクセントカウンター」が取り入れられ、「穏やかな上質」をかなえるデザインと使い勝手が実現しました。デザイン担当の北林 甲子郎さん、浴室担当の石間 敦さん、水栓担当の三重野 豪さんに、その開発の経緯を伺いました。
デザイン第1部 第一デザイングループ
北林 甲子郎 さん
筆記用具メーカーのプロダクトデザイナーを経て、TOTOに入社。洗面化粧台のデザインを手がけたのちに、浴室の浴槽やリモコンのデザインなどに従事。「シンラ」ではカウンターのデザインを担当。
浴室開発第一部 浴室商品開発グループ
石間 敦 さん
工業高等専門学校で機械工学を学んだのちにTOTO入社。浴室事業部で建具などの開発に携わる。シンラではアクセントカウンターの開発、およびスマートタッチ水栓の全体統括を担当。
機器水栓開発第2部 機器水栓開発4グループ
三重野 豪 さん
大学では機械工学を専攻。TOTO入社後は、浴室換気暖房乾燥機の開発に10年ほど携わる。中国の工場への出向を経て、シンラの水栓開発を担当。
従来の「シンラ」からどのように変わったのですか?
北林 甲子郎さん(以下、北林) もともと「シンラ」はTOTOのなかでも最高級システムバスルームに位置づけられます。これまでの機種でも照明効果や素材感を大事にしながら、上質な空間を目指してきました。今回は「上質をつむぐ。心をほどく。」というコンセプトを掲げ、さらに深みのある「穏やかな上質」に向けて、デザインをさらに進化させていこうと一同で開発に取り組みました。
「穏やかな上質」とは?
石間 敦さん(以下、石間) 最高級にふさわしい機能を持たせながらも、まるでリビングのような心身共にくつろげる空間をイメージしました。ですから、新しい水栓はこれまでとは大きく異なる構成を採用して、浴室にあって当たり前の部品を見せることのない新しい空間の提供を目指していけたら、と。
北林 そうした取り組みの象徴とも言えるのが、新しいシンラで取り入れた「お掃除ラクラクアクセントカウンター」です。写真を見ていただくと、全体に薄く軽やかなのが分かると思います。エッジにメタルラインを施し、光をソフトに透過するフロスト調の素材を使うことで、軽やかな浮遊感を演出。穏やかな雰囲気をもたらします。
ずいぶんすっきりとしたデザインに変わりましたね
石間 このデザインを実現できた大きなポイントは、リモコンによる操作部と、バルブ機構をはじめとした本体部、湯水の出口となる吐水部全てを分離した「スマートタッチ水栓」を新たに開発、採用したことです。従来、水栓の操作部のダイヤルも水栓本体もアクセントカウンターに組み込まれていたのですが、今回、操作部は液晶リモコンに変更して壁面に設置、バルブ機構などの水栓本体は洗面置台カウンターに内蔵、という具合に分割。これによって、アクセントカウンターには吐水部だけが残り、見た目にもすっきりさせることができました。
北林 アクセントカウンターは腰ほどの高さにあり、目に入りやすい部分です。シンラというシリーズの顔の一部でもありますから、アクセントカウンター、洗面置台カウンター、リモコンとも統一して、最上位機種としてふさわしい高級感のあるデザインにしました。
開発の段階ではどんなことが課題に?
北林 まず水栓本体をアクセントカウンターからどこにどのように移すのか、を決めないといけません。リモコン、バルブ、電気制御する基板などさまざまな要素があるので、石間さんや三重野さんにも相談しながら最適な配置を検討していきました。
三重野 豪さん(以下、三重野) 先程お伝えしたように、最終的に水栓本体は洗面置台カウンターにおさめることになりました。北林さんには「スリムなカバーデザインにしたい」という狙いがあり、その意匠を踏まえながら石間さんは浴室全体のバランスを考慮して、「こういう寸法のなかに水栓本体をおさめてほしい」という要望を出してくる。このような業務の流れがあります。その要望にしたがって機器の配置を考えるのが、私たち水栓事業部の役割です。これまでにないことをするわけですから、当然、前例はありません。限られたスペースの中にどのようにおさめるか。もっとも苦労した部分でした。
どのように解決しましたか?
三重野 お互いの立場が違うので、主張も違います。ときにはけんかのような勢いで(笑)議論しながらも、少しずつ修整して、なんとか意匠性も機能も両立させる落としどころにたどりつくことができました。
北林 デザイン性も大事。でも水栓をきちんと機能させることも大事。これまでの知見や技術を応用しながら、新しいことに挑戦しながら信頼性のある商品をつくろうと、お互いに必死でしたね。
各部署の知見や技術のすり合わせが大切なんですね
三重野 今回は本体部と吐水部の分離により、本体部に壁裏の配管で接続する箇所が増えています。あらゆる部材の誤差がある中で、すべての箇所を確実に、また組立者の技量に関わらず組み立てていただくにはどうしたらいいか? という大きな課題がありました。どれほど精密に製造しても、配管と壁は素材も加工方法も違うもの同士ですから、すべてぴたりと位置を合わせるというのは至難の業なんです。
石間 そこは機器水栓事業部と私たち浴室事業部とで何度も話し合って、お互い誤差が生まれにくいように工夫を重ねていきました。部材や組み立ての誤差を吸収できるような仕組みも水栓の接合部につくりましたね。商品の信頼性をより高めるため、エネルギーを注ぎ込んだポイントの一つです。
「スマートタッチ水栓リモコン」も新しい機能ですね
北林 従来は、入浴中には、アクセントカウンターにある回転式のダイヤルで水の出し止めや流量・温度の調整などをしてきました。今回はカウンターが薄く見えるデザインの実現に向け、それらの壁面配置をお願いしたのです。その結果、最終的に指でタッチして操作する、流量や湯温の目安は画面のゲージの変化で表現する、という形になりました。当社のユニバーサルデザインの検証部門にも協力してもらって、使いやすさも配慮しながらデザインや仕様を検討していきました。
初めての機能ということで苦労もあったのでは?
石間 これまでダイヤルで感覚的に操作していた流量や温度の調節をゲージの目盛りに落とし込むわけですが、目盛りひとつ分をどのくらいの変化量にするのが適正なのか、誰もわからない。なにしろ初めてですから。どのようにしたら、誰にとっても過不足なく操作しやすい段階設定か、その検証が重要になりましたね。
バルブからのお湯の流量や温度調節については、写真のような機器を使い、精密にチェックして検証を重ねていきました。
どのように使い勝手を検証しましたか?
石間 操作性、視認性については、50人以上の社内モニターに協力してもらって、確認していきました。温度の目盛りは何段階がいいのか、何度から何度の幅が必要なのか。夏場でしたら水に近いくらいのぬるいお湯で、ほてった体を冷やしたいというようにさまざまなニーズがあることも分かりました。
三重野 私たち水栓事業部のほうでも60人くらいのモニターに協力してもらって調整していきました。温度に敏感な人もいれば、「お湯はお湯だよね」くらいのおおざっぱな人もいましたね(笑)。
石間 人の感じ方は本当に幅広いのですが、たくさんデータを取ってみると、だいたいこのあたりが適切なのかなというラインが見えてきました。
多くの人に協力してもらったのですね
石間 当社では「お風呂ランド」という浴室体験できる施設があるので、そちらにも試作品を設置して、誰でも入れるようにしました。本当にこの仕様でお客様に満足いただけるのか、徹底的に確かめて、何か問題が見つかれば修整して。自信を持ってみなさんにお届けできる商品になったと思います。
シンラのデザインに携わった感想は?
北林 今回シンラのデザインに取り組んでみて、あらためて「上質」というコンセプトに向き合いました。スマートタッチ水栓の採用と薄型のアクセントカウンターの実現によって、かなり洗練された商品になったと思います。ぜひ、写真で見るだけでなく、ショールームで実物をご覧いただきたいですね。
浴室は今後どのように変化していくでしょうか?
北林 今回は「穏やかな上質」というテーマで開発に取り組みましたが、市場トレンドや社会の価値観が変われば、そこで求められる上質の意味合いもまた変わっていくはず。やり尽くしたようであっても、また数年すれば新たな追求の仕方ができるのでしょうね。今回はスマートタッチ水栓を取り入れましたが、新たな技術や素材が生まれれば、さらにそれに伴うデザインの進化も必要になっていくのだろうと思っています。
三重野 今、住まいのデジタル化、IoT化が進んでいて、浴室も例外ではありませんよね。今回初めて取り入れたスマートタッチ水栓も今後、当たり前の設備になるかもしれません。水栓をリモコンで操作するという経験をみなさんがしていくなかで、また新たなアイデアが生まれていくのではないでしょうか。そんな何かを生み出す新しい生活体験を、国内外を問わず広げていくことができるのでは。新しいシンラの開発に少しでも貢献できてよかったと思います。
今後、取り組みたい商品はありますか?
石間 お客様がいま「仕方ないな」と諦めているようなことを解決できるような商品開発に取り組みたいと思っています。例えば今回、「温水準備機能」という、お湯に変わるまでの冷たい水を自動で排水する仕組みも搭載しました。もうボタンひとつ押せば、お湯が出るまでヒヤッとする不快な思いをしなくてすみます。ちょっとしたことかもしれませんが、そんな課題をひとつずつ解決していけたらと思います。
編集後記
これまでブラッシュアップを重ね、進化し続けてきたシステムバスルーム「シンラ」。今回、さらなる上質な空間を目指して大きな変革を遂げたのは水栓の内部構造と操作部でした。3人のお話を伺い、あらためて、意匠デザインと普段は目にすることのないさまざまな内部構造が不可分であることを実感。喧々諤々と交わす議論の場に一度居合わせてみたい…。こういった柔軟な協働の姿勢がある限り、商品はまだまだ、想像さえし得ない方向に進化するのではないでしょうか。
編集者 介川 亜紀
取材・文/渡辺 圭彦 写真/後藤 徹雄(特記以外) 構成/介川 亜紀 2024年8月1日掲載
※『快適はヒトの手から~開発ストーリー~』の記事内容は、掲載時点での情報です。
次回予告
次回は8月に発売されたばかりの新商品「コンフォートウエーブシャワー3モード(ミスト)」。TOTOだからこそできた、美容のみならず家族全員の快適な入浴を配慮したシャワーヘッドは、どのような過程を経て開発されたのでしょうか? 企画担当、開発担当のおふたりに話を伺いました。
2024年9月20日公開予定。ご覧いただきまして、ありがとうございます。
これからの『開発ストーリー』を充実させたく、皆さまのお声をお聞かせください。
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