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2023年11月22日

「ファンのお手入れ10年間不要」を実現! スリムでも油も煙も逃さないレンジフード

快適はヒトの手から〜開発ストーリー〜

キッチンのお手入れの中でも特に手がかかるのが、レンジフードまわり。揚げ物や炒め物などの調理をした後にべったりとフィルターに油汚れが付着して、苦労した経験をお持ちの方も多いことでしょう。そんな悩みを解消したのがTOTOのレンジフード「ゼロフィルターフードeco」。きめ細かい検証と、さまざまな工夫を施して、ファンのお手入れは10年間不要になり、お掃除の負担が大幅に低減しています。開発に携わった小川翔さんにお手入れ向上の秘密についてお聞きしました。

キッチン・洗面開発第二部 キッチン開発グループ

小川 翔 さん

大学院でシステム理工学を専攻。
2019年に入社後、システムキッチンの新商品開発業務に携わる。



DCモーター(直流電源で動くモーター)採用により排気性能を向上・安定させながら、ファンや本体のお掃除の手間をぐんと減らした「ザ・クラッソ ゼロフィルターフードeco」。現代のインテリアになじむデザイン性も兼ね備えます。



部品点数を最小限にすることで、お手入れ時のストレスを減らす


    「ゼロフィルターフードeco」は従来のレンジフードとどこが違うのですか?


小川さん(以下、小川) 名称にある「ゼロ」は「フィルターがないこと」を意味しています。お手入れが面倒なフィルターをなくし、フード本体は部材の継ぎ目など油が入り込みやすい場所をなくす、内部はふきやすくするために凹凸を減らすという点を徹底しました。また、ファンには油を弾く表面加工(撥油コート)を施しているので、換気量低下の原因となる付着油を軽減できます。面倒なファンのお手入れをしなくても、10年間継続してお使いいただけます。


    ファン以外のお手入れは?


小川 ファンが回転して弾き飛ばした油は、周囲のケーシングが受け止めた後、その下部の皿状のオイルパックに集められます。1ヶ月に1度程度のペースで、そのオイルパックを外して洗う、そして、フードをカバーしている整流板というパーツをふく、それだけです。従来のような油を捕集するためのフィルターを洗う手間がなくなりました。




小川さんが持っているのがオイルパックというパーツ。中央に見える筒状のものがシロッコファンと呼ばれるパーツです。


    オイルパックと整流板をお手入れするだけでいいのですね。


小川 整流板も従来のように全体を取り外す必要はありません。手前と奥が別々に外せる両開き式にしましたので、キッチンに吊り下げた状態で汚れをふき取ることができます。大きな整流板を抱えて着脱させたり、無理な姿勢で汚れをふいたりする苦労はせずによくなりました。

整流板は手前と奥のそれぞれに開くので、レンジフード本体に吊り下げたまま、ふき掃除ができます。頭の低い特殊ネジを使用する配慮をしており、ふき掃除の際にふきんが引っかかることがありません。


    ファン自体も洗えるのですか?


小川 ワンタッチでファンも外せるようになっています。開発時に、疑似ホコリを使用して、ファンに10年分相当の汚れが堆積した状態でもきちんと排気の性能を満たしていることを確認していますが、気になる方のために簡単に外してお手入れできるようにしています。


    それは安心ですね。


小川 お料理は毎日のことですから、きれいを手軽にキープすることで少しでもストレスを軽減できればという思いがありました。どうしたら気兼ねなくお料理が楽しめるか。そのため、お手入れする部品点数を最小限に減らし、お掃除が楽になるような構造にすることを重視しました。





スリムなデザインと油煙の捕集効率のバランスを追求


    開発にあたってのコンセプトは?


小川 「デザインと機能の融合」という大きなテーマがありました。「ザ・クラッソ」というTOTOの最上位機種のシステムキッチンに搭載するレンジフードとして、洗練されたデザインであるとともに、お客様が使いやすいような機能も実現させなければなりません。

そこで私たちの課題となったのが、調理で生じる排気を集める部位の厚みでした。従来品では70mmあったのですが、当時ウォールキャビネットのライン取っ手の高さとそろえて、キッチン全体をすっきりとした印象にするために、「35mmまで薄くする」ことを試みました。


    製品の一部の寸法を半分にするのは大変なことですね。


小川 従来品では高さ70mmを確保して懐を深くして、油煙の捕集効率を高めていたのです。この懐の深さがないと、油を含んだ煙を取り逃がす量が増えてしまうと予想されました。

また、従来はフードの奥側に付いていた照明を手前側に変更するという課題もありました。調理中のお鍋の中に光を当てて見やすくするためです。しかし、照明を手前側に付けると、煙の吸い込み口を従来よりも奥にずらすことになり、これも吸い込み能力の低下につながる課題でした。


    どのように解決したのですか?


小川 ポイントは整流板です。整流板は文字通り、吸い込む煙の流れを整えるためのパーツです。整流板の周囲に立ち上がり部をつけるのですが、立ち上がり部を大きくして吸い込み口を狭くすれば、風速が上がり、吸い込み能力も高まります。とはいえ、風速が上がれば、その分気流が発する騒音も大きくなってしまうのです。


    騒音と吸い込み能力のバランスとは、悩ましいですね。


小川 はい、目標値をクリアするため、ひたすら試験を重ねました。試験室で、レンジフードの下で線香を焚き、煙をフードに吸わせるのです。整流板の周囲の立ち上がり部を少しずつ変えながら、煙を吸わせて、騒音レベルを抑えながら、前後左右の吸い込みバランスも考慮し高い油煙の捕集効率が得られる最適解を探っていきました。

実験の際、レンジフードで線香の煙を吸引する様子。
<従来品>70mmの厚さのフード内部に煙を確保して、捕集効率を高めています。
手前に照明を付けると従来品よりも吸い込み口が奥側になり、手前側のコンロで調理するときの吸い込み能力低下の解消が課題になりました。
整流板の周囲の立ち上がり部を大きくして、吸い込み口を狭くすれば、気流の速度が増す代わりに、騒音が大きくなります。吸い込み能力を落とさずに騒音を抑えるベストバランスの形状が模索されました。



10年分の汚れをレンジフードに吸い込ませて能力を検証


    照明も吸い込みも騒音低減も全部あきらめないでベストバランスを追求したのですね。


小川 もうひとつ大事なのが、ファンの工夫でした。実際の調理では煙だけでなく油も吸い込みます。従来は吸い込み口にフィルターを取り付けて油をある程度除去していたのですが、そのお手入れがお客様の大きな負担になっていました。

そのため、今回は、①撥油コートを施したファンが回転してフード内部のケーシングに油を弾き飛ばす、②飛ばされた油はケーシングに刻まれた凹凸を伝って下に流れ落ちる、③ケーシング下部に取り付けられたオイルパックに油が集まる、という仕組みを採用しました。これでフィルターがなくても油をしっかり捕集できるフードが完成しました。


    特に大変だったのは?


小川 この仕組みにすることで「10年間ファンのお手入れ不要」と打ち出したかったのですが、もちろんそれは検証しなくてはなりません。検証方法を検討し、「10年分の汚れってどんなものだろう」と考えるところからスタートしました。

使用する家族構成を想定し、ご家庭のホコリ量を推定するために空気清浄機のフィルターに付着したホコリの重さを測ったり、実際に揚げ物調理をしてレンジフードに取り付けたフィルターの油を料理前後で算出したり。試験用に配合した10年分の疑似ホコリと油をレンジフードに吸い込ませ堆積させて、そのような条件でも目標の必要換気風量を満たすことを確かめました。試験を重ねるうち、いつの間にか、私の作業服はすすだらけ、顔や手も真っ黒になっていましたね(笑)。



試験室で作業する小川さん。
缶の中には試験用に配合した疑似ホコリ。これをレンジフードに吸い込ませて能力を確認します。
吸い込み試験の後のファンの様子。羽根の部分にうっすらと疑似ホコリが付着しています。
吸い込み口のファンを取り外した様子。周囲に凹凸のついたケーシングが見えます。ファンについた油はまずケーシングに飛び、凹凸を伝って下のオイルパックに流れ落ちます。



インテリアに馴染むように進化させたい


    開発に携わってみていかがでしたか?


小川 私はもともと大学では人間工学を学んでいて、ヒトの姿勢制御メカニズムを研究していました。こうしてキッチンの開発に関わってみると、生活の中でもいろんな動きがあることをあらためて実感しました。少しでもキッチンで楽に作業できるようにしたいという思いも湧き上がってきましたね。


    製品の出来栄えはどうですか?


小川 清掃性も機能性も目標としていた水準がクリアでき、自信を持っておすすめできるレンジフードになりました。しかし、お手入れが必要な部品はまだ2つ残されていますし、すき間や段差もまったくのゼロではありません。まだまだ高みを目指すのびしろは残っていると思います。


    デザインもすっきりと仕上がりましたね。


小川 TOTOの目指すノイズレスデザインという観点からも一定のレベルには到達できた手応えはあります。今後、さらに部品点数を減らしシンプルな形状にまとめることで、インテリアに馴染むような進化を目指していきたいです。


    レンジフードはこれまでに、デザインも機能もずいぶん向上したのですね。


 実は私の実家は相当古い建物で、台所も昔ながらの壁付けの換気扇を使っています。回すと音はうるさいし、ファンに油汚れがこびりつくし、母もずいぶん苦労してきたのだろうなあと申し訳なくなるくらい(苦笑)。こんなキッチンが日本全国にまだまだたくさんあると思います。そうしたご家庭でも、この「ゼロフィルターフードeco」を使っていただけるようになれば、もっと家事が楽に、暮らしもより豊かになるのではないかと思っています。

※ノイズレスデザイン
空間調和の妨げとなる要素である余分な凹凸や隙間などを取りのぞいていく発想

※10年間ファンのお手入れ不要
「10年間ファンのお手入れ不要」とは、10年間ファンに汚れが堆積した場合でも建築基準法をもとに当社条件で算出した必要換気量が得られることを意味します(実使用での実証結果ではありません)。
必要換気量算出条件:コンロ全点火(グリル含む)+オーブン全点火レンジフード内部が汚れないということではありません。また、整流板、オイルパック、本体周囲は月1回程度のお手入れが必要です。調理内容や設置環境などの条件により効果が異なります。10年間ご使用後に換気量が低下した場合は、部品の交換が必要になるケースがあります。(有料)

編集後記


レンジフードの汚れは致し方ないもの、という時代は終わったようです。新築やリフォームのときに、お掃除に配慮されたレンジフードを選ぶという選択肢ができたのですね。実験で10年分の汚れをごく短時間に再現するなど、観察眼や発想の転換を生かしたきめ細かい検証が結実した開発なのだと感じました。小川さんをはじめ開発者の皆さんが目指している、さらなるお掃除「ゼロ」レンジフードがお目見えする日もそう遠くはないのかもしれません。

編集者 介川 亜紀

取材・文/渡辺 圭彦  写真/後藤 徹雄(特記以外)  構成/介川 亜紀  2023年11月22日掲載
※『快適はヒトの手から~開発ストーリー~』の記事内容は、掲載時点での情報です。


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