西鉄ホテル クルーム 博多祗園 櫛田神社前
2023年4月にオープン。地上13階建て、全275室。ツイン、ダブル、トリプル、フォース、長期滞在向けのステイタイプなど、9つの客室タイプを備えている。地下鉄の駅のすぐそばという立地を活かし、宿泊施設としてだけでなく、ワーキングスペースや交流・くつろぎの場としての機能を兼ね備えた「サードプレイス(第三の居場所)」を提供する。福岡県の伝統工芸である大川組子をモチーフにした外観デザインも特徴的。福岡市営地下鉄「櫛田神社前駅」から徒歩1分、天神や中洲にもほど近い好立地に立つ「西鉄ホテル クルーム 博多祗園 櫛田神社前」(以下、クルーム博多祗園)。「旅先にある、わたしの家」をコンセプトとするこのホテルは、今年4月の開業以来、高い稼働率を維持しています。
「お客様に我が家のような安らぎ、くつろぎを提供することに加え、観光やビジネスで訪れた方と地域の方々が交流できる〝開かれたホテル〟となることが私たちの方針です。そのため、1階にはご宿泊者以外も利用できる飲食スペースを設置し、2階のロビーラウンジでもワーキングスペースとして誰もが利用できる時間帯を設けるなど、工夫をしています」
西鉄ホテルズの権藤裕輔さんはそう説明します。そして、設計を担当した安藤・間の桑田具実さんも続けます。
「低層部のメインファサードは吹き抜けとし、閉鎖的になりがちな建物正面に開放感を演出しました。その他、隣接する寺院の植栽を借景としたり、ホテル前の『くの字』の道路からの視認性を高め、存在感のある建物にするためホテル自体を屈曲させる工夫なども行っています」
そうしたさまざまなアイデアが詰まったクルーム博多祗園。その浴室やトイレについても、きめ細かな配慮がなされたホテルとして注目されています。権藤さんは、「水まわりは部屋の印象を左右する大事な要素。限られたスペースの中でいかに快適性、機能性を高めるか。ミリ単位で設計を調整しました」と言います。
そこで一つテーマとなったのが、〝浴槽を設置する部屋の割合〟です。ホテル1階には大浴場があるため浴槽のない「シャワールーム」で間に合うという考え方もあります。コスト面を優先すればその割合を高めるのが最善です。しかし結果的に、シャワールームを採用したのは、ダブル、畳敷きの小上がりダブルの部屋のみ。ツインの他、家族旅行やグループ旅行にも対応するトリプル、フォースなどの部屋は、浴槽ありの「バスルーム」としました。
「なぜならお客様の中には小さなお子さま連れをはじめ、『部屋にお風呂があると助かる』という方が一定数いらっしゃる。そうしたニーズにも最大限応えたいと思いました。その一方でシャワールームのお客様にもしっかり付加価値を提供しています。日本ではまだ目にする機会が少ないオーバーヘッドシャワーを設置したのです。非日常を味わう場でもあるホテルで普段にはない経験をしてほしいと考えました」(権藤さん)
そして、クルーム博多祗園ではバスルーム・シャワールームとトイレを基本的に分けています。これも利用する人の立場になった心配りです。入浴によって、トイレや洗面台付近の床が濡れることを好まないという声も多いからです。
「浴室・トイレ別をホテル選びの条件にしている人は増えていると感じます。特に複数人での宿泊の場合、浴室・トイレが一緒だと一人で水まわりを占用してしまう、トイレ使用後に別の人がお風呂に入ると臭いが気になるなどの課題もあり敬遠されます」(権藤さん)
「まさにそうした理由から、浴槽、トイレ、洗面台が一体になった3点ユニットバスを採用するホテルは徐々に減る傾向にあります。水まわりを部屋の中にどう配置し、使いやすいものにするかは、設計者の腕の見せどころです」(桑田さん)
ただ、3点ユニットバスには水まわりをコンパクトに納めることができるというメリットがあります。今回、これを唯一採用したのが長期滞在に適したステイタイプの部屋です。ミニキッチンや洗濯機、電子レンジなどを備えたこの部屋では、それを置くためのスペースを確保する必要があったからです。桑田さんはこの判断に、西鉄ホテルズの顧客思いの姿勢を強く感じたと言います。
「水まわりのコンパクトさだけを追求するならシャワールームという選択もあります。『しかしそれだと、大浴場の営業が終わった遅い時間に戻られたビジネスパーソンなどが湯船に浸かれない』というのが西鉄ホテルズの考えです。そうしたことまで想定しているのかと感心しました」
クルーム博多祗園では、多くのTOTO製品を採用しています。風呂のお湯張りを設定した湯量で自動的にストップする「定量止水」の水栓もその一つ。これが節水に大きく貢献しています。
「機能性、メンテナンス性が高いTOTOの製品は、ホテルでの実績も豊富でやはり安心感があります。加えてありがたいのは提案力。共用部のトイレの最新型『クリーンドライ』は、まさに営業のご担当者からの情報提供に基づいて取り入れた設備です」(権藤さん)
非接触で手を乾かせる「クリーンドライ」は、高速の風で水滴を吹き飛ばす製品ですが、最新型には風と水滴を〝吸引する〟機能も追加。コロナ禍で感染症対策への意識が高まる中で開発されました。
「実機を体験させてもらうと使い心地もよく、すぐに採用を決めました。開発期間がコロナ禍と重なったクルーム博多祗園では、ポストコロナのあるべきホテルをイメージして、多様な取り組みを行いました。自動チェックイン機やエレベーターの非接触ボタン、自然換気を重視した設計などがその例。『クリーンドライ』も感染症対策に厚みを持たせてくれた設備の一つです」と権藤さんは話します。
計画時から竣工まで設計担当として共に歩んだ桑田さんは、「複数の部署で徹底的に議論をして、時代に合ったホテルの形を追求する西鉄ホテルズのチームワークが印象に残っている」と言います。
最後に権藤さんは、クルーム博多祗園のこれからの抱負について次のように話してくれました。
「さまざまなチャレンジの効果をしっかり検証していくことが開業後の重要な仕事。もちろん水まわりもポイントの一つです。繰り返しになりますが、その快適性や使い勝手は、たとえ無意識であってもホテルの評価に影響しますから、一つ一つの取り組みのメリット、デメリットを確認し、これからのホテル運営、また新たなホテルづくりに活かしていきたいと考えています」
名 称 | 西鉄ホテル クルーム 博多祗園 櫛田神社前 |
所 在 地 | 福岡県福岡市博多区祗園町6番30号 |
施 主 | 西日本鉄道株式会社 |
設 計 | 株式会社安藤・間一級建築士事務所 |
施 工 | 株式会社安藤・間九州支店 |
構 造 | 鉄筋コンクリート造・地上13階 |
竣 工 年 月 | 2023年2月 |
クリーンドライ吸引・高速 TYC430WJ | 自動水栓 TLE28002J |
コンパクト・バリアフリートイレパック | ベッセル式洗面器 LS716 |
壁掛自動洗浄小便器 UFS900 | ホテル向け和風ユニットバス EDV1216 |
ホテル向け洋風ユニットバス ERV1216 | シャワールーム JSV0812 |
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