非接触で手を乾かせるハンドドライヤーは、清潔な手洗い空間に欠かせない製品の一つ。TOTOではさらなる快適さや安心感を目指し、風や水滴を吸い込むハンドドライヤー「クリーンドライ 吸引・高速両面タイプ」を開発しました。製品の工夫を開発者に聞きました。
── 吸引・高速両面タイプ」(以下、吸引式)の特長を教えてください。
入江● ハンドドライヤーは高速風で水を吹き飛ばすシンプルな製品。それゆえ風の吹き返しや水滴の飛散をいかに抑えるかが使い心地に直結します。TOTOの現行品(高速両面タイプ)では、乾燥室形状や側面カバーの工夫で、風の吹き返しや水滴飛散を軽減できるよう配慮しています。それを進化させたのが、今回の吸引・高速両面タイプ。手を乾かす高速風を吹き出す機能に、吸引する機能を追加しています。従来品を扇風機とするなら、新商品は扇風機と掃除機を合体させたようなイメージですね。使用時に周囲の空気と乾燥風を吸引することで、一般的な吹出式のハンドドライヤーに比べると水滴飛散数は約90%低減できており、より衛生的かつ快適に使っていただける製品になっています。吸引した風は空気清浄機などにも搭載されているHEPAフィルターを経由してさらに清潔な乾燥風として吹き出します。温風を循環させ、乾燥風として再利用するので、そのぶんヒーターにかかる電力も少なくすみます。
── 吸引の仕組みを取り入れたきっかけは何でしょうか。
入江● 大きな理由は、新型コロナウイルス感染症の流行です。一時はハンドドライヤーの稼働停止をする施設もありました。しかしハンドドライヤーは非接触で手を乾かすため、非常に衛生的。海外では特にハンドドライヤーは規制されておらず、日本でも2022年10月に内閣官房よりハンドドライヤの使用を含む各業種別ガイドラインの見直しの指針が発信され、ハンドドライヤーを再稼働する施設が出てきました。
とはいえ、今でも「ハンドドライヤーがウイルスをまき散らしているのではないか」等、不安を感じる方がいるのも事実です。どなたにも安心して使ってもらえるよう、クリーンドライをしっかりと進化させることが開発者の使命と考え、チーム一丸で開発に取り組みました。社内外の有識者にも相談し、高速乾燥は維持しつつも「そもそも飛ばさない」というコンセプトにたどり着きました。その実現には「吸うしかない」。そう結論づけ、吸引式の開発に着手しました。
── これまでにない機能を備えながらも、見た目はほとんど現行品と同じになっています。
入江● ポイントは、1つのファンモーターで「乾燥風を吹き出す」機能に加えて、「乾燥風と周囲の空気を吸引する」機能を両立していることです。開発当初は乾燥風を「吹き出すモーター」と「吸引するモーター」の2つのモーターで商品を構成することも考えましたが、それでは商品サイズや消費電力が大きくなってしまい、既設品からの置き換えやTOTOらしい空間提案ができません。コンパクトだけど「周囲の空気」もしっかりと吸い込む方法を考えました。
── 1つのファンモーターで乾燥風だけでなく、周囲の空気も吸引できるのはなぜでしょうか。
入江● 高速乾燥は維持しつつ、周囲の空気も吸い込むように、風路を工夫しています。具体的には、HEPAフィルターを通過した風の一部を、乾燥風を吹き出すノズル以外のところから外に逃がしています。ノズルから吹き出す乾燥風が少し減りますが、減ったぶん、自然と周囲の空気を乾燥室内の吸気口から吸い込むようになります。この方法で高速乾燥性能を維持するには、ノズルから吹き出す乾燥風と、ノズル以外から排出する風量のバランスの見極めが必要になります。ノズル以外から風を逃がしすぎると手を乾かすための風量が足りず乾燥性能が悪くなり、反対に、ノズル以外から排出する風の量が少ないと、周囲の空気をうまく吸い込めません。どれだけの空気を逃がし、またどんな角度で、どの程度の速度で吹き出せばいいのか。高速乾燥は維持しつつ、乾燥風に加えて周囲の空気もしっかりと吸い込むように、風量のバランス等、試作を重ねてトライ&エラーを繰り返して作り込んでいきました。
── 吸い込みきれずに風が吹き返したり、水滴が飛び散ることはないのですか。
入江● CAE(Computer Aided Engineering)による流体解析を活用して、風の流れを見える化しています。ノズルから出た乾燥風が手に当たって、商品の外にそのまま風が出ないように、最適なノズル角度(乾燥風の向き)を設定しています。
── 吸引式で採用されたHEPAフィルターの特長を教えてください。
入江● HEPAフィルターは0.3㎛(髪の毛の太さの100分の1程度)の微細な粒子も99.97%捕集する優れたフィルターで、クリーンルームや空気清浄機等で使用されています。JIS規格で定められている高い捕集性能が特長です。国の新型コロナウイルス感染症対策のガイドラインにも感染症対策例(空気清浄機)としてHEPAフィルター付きが有効と言及されています。
── HEPAフィルターの清潔性はどのように保たれているのでしょうか。
入江● 大きな埃などはプレフィルターで除去します。また、HEPAフィルターに汚れた水が飛散しないように、乾燥時にしっかりと水と空気を分離できるように手を差し込む乾燥室の形状を工夫しています。手を乾燥するだけでは、乾燥室内の吸気口から水がほぼ入っていかないようになっていますが、それでも水びたしのスポンジなどで清掃した場合には、風路に水が浸入し、HEPAフィルターに水が付着するかもしれない。そうした事態に備え、清掃などで生じた水はHEPAフィルター収納空間外のサブトレイ(水受け部)に排水し、水が付着しない構造にしています。なお、サブトレイは水受けトレイ同様に取り外しは容易で日常的なお手入れも簡単です。
── クリーンドライそのものの水滴飛散を抑えても、ハンドドライヤーが洗面台から離れていると、床に水が滴ってしまいます。動線への配慮はありますか。
入江● 以前からTOTOでは、手洗いから乾燥までのスムーズな動線で〝水じまい〟に配慮したハンドドライヤーセットプランの空間提案をしています。今回の新商品はコンパクトな吸引式のため、ハンドドライヤーセットプランにも対応できています。商業施設等で採用される高さ750㎜のカウンターでも、クリーンドライをすっきり設置できます。例えば昨年発売したハイバックカウンターは、従来のカウンターでは設置が難しかった奥行幅の狭い場所でも設置可能で、洗面ボウル横にクリーンドライを設置するセットプランもあります。コンパクトな空間でも手洗いから乾燥までスムーズに行えます。
── 新型コロナウイルスの流行から吸引式の発売までの期間は実質2年程度。短い期間でしたが、どんな思いで開発に取り組んだのでしょうか。
入江● 正直、この短い期間で新商品を開発するのは多くの困難がありました。それでも利用者の不安に寄り添い安心して使える商品を一日も早く世に出したいとの思いで開発を進めてきました。もともとクリーンドライは非接触操作で衛生的に使用でき、またペーパータオルと比較しても経済的で、ゴミ処理負担の削減も図れる商品です。そうした利点の多いクリーンドライをさらに進化させた今回の新商品は、ハンドドライヤーの使用に不安を感じる方やハンドドライヤーの設置に悩む施主様等にも、改めて使用いただけるきっかけとなるのではないでしょうか。
手洗いへの意識や水まわりの清潔性への意識は大きく変化しました。市場変化を進化の機会として前向きに捉えて、気流制御の技術を高めてより良い商品を開発し、きれいで快適、環境にも配慮した洗面空間を実現していきたいと考えています。
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