にしむら珈琲店 阪急前店
神戸市・御影の菓子工房「セセシオン」とのコラボレーション店としてオープン。こだわりのコーヒーとともに、多彩なケーキ、洋菓子を楽しむことができる。また、月替わりメニューのプレートセットなど、気軽に食事を取ることも可能だ。神戸三宮駅、三宮駅から徒歩約1分。
1階に新設した男女共用トイレも、まさに時代の要請に応えるものとなっています。
「1階にどうしてもトイレをつくりたかった理由の一つは、高齢のお客さまに対応するためです。これまでは階段で地下に下りていただくしかなく、危険に感じることもありました。その他、体が不自由な方もいらっしゃれば、ベビーカーを押して来店される方もいる。全体から見ればそうしたお客さまの割合は高くありませんが、せっかく新しくトイレをつくるなら、十分な広さを備え、誰もが安心して、快適に利用できるものにしたいと思いました」
当初、社内には「トイレにスペースを割くより、席数を確保したほうがいい」との意見もあったとのことですが、最終的には現場の判断を優先し、車いすでも通れるようにトイレの間口を確保。ブース内には、手すりやベビーシートを設置しました。
実はこのベビーシートも、とてもニーズが高い設備の一つです。先述の「飲食店トイレのお客様意識調査」の「飲食店のトイレで子ども連れ配慮としてこのくらいは設置しておいてほしいとお考えになる設備」では、62%の人が「おむつ替え用の台」と回答し、第1位となっています。
「さらに、混雑時は扉の前でトイレを待つ人もいることから『音姫』を取り付けるなど、納得のトイレを完成させることができました。当然ながら、三宮駅周辺ではたくさんのカフェやファーストフードが営業しています。その中で選んでいただくには、何より『また来たい』と思わせる細かな配慮が必要になる。質の高い商品、サービスを提供するのはもちろん、お客さまの意識や社会の変化を捉えて店づくりをすることも大切だと思っています」と篠原さんは言います。
「例えばかつて、喫茶店では相席が当たり前でした。しかし今はほとんどありませんから、それを前提にテーブルや椅子をセッティングする必要があります。同様に、高齢者やお子さま連れの方への配慮は、いまや飲食店にとって基本的なこと。そう考えています」
全国的に名高い六甲の銘水「宮水」で淹れたコーヒー、またシックで落ち着いた雰囲気のファンは多く、地元の人はもちろん、観光客にも支持される老舗喫茶店です。
その中で、神戸一番の繁華街、三宮の駅前で営業するのが「阪急前店」。2002年に店内の改装に合わせて地下1階のトイレをリニューアルし、さらに2021年には1階スペースの拡張に伴ってトイレを新設しています。
「お店の広さは地下1階と1階の2フロアを合わせて200㎡ほど。席数は約140で、トイレは地下1階に男性トイレと女性トイレが1つずつ、そして1階に男女共用のものがあり、計3つとなっています」
そう説明するのは店長の篠原伸夫さん。「阪急前店」の店長を10年以上務め、トイレの改修、設置についても、先頭に立って設計・施工会社と打ち合わせを重ねてきました。
「日々現場を見ている人間がきちんと意見を出すのは大事なこと」と言う篠原さんが地下1階のトイレの改修でまず行ったのがレイアウトの変更です。従来、トイレスペースの正面には2つの洗面コーナーが横並びで設置され、男女が隣同士で使用することもありました。それを新たに扉を設けるなどして、それぞれ男性トイレ、女性トイレの中に納めたのです。
「改修前は、女性が化粧直しをしている隣で男性が手を洗ったり、すぐそばを通ったりしていました。2つの洗面コーナーはすりガラスで仕切られていたものの、どうしてもお互いの様子は感じられてしまう。特に女性にとっては、落ち着いて身だしなみをチェックしたり、髪を整えたりできないのが課題でした」
実際、「男女別のトイレ」のニーズは非常に高いことがわかっています。TOTOが行った「飲食店トイレのお客様意識調査」によれば、「あなたが飲食店のトイレで『こんなトイレだとうれしい』と感じるときはどのようなときですか」という問いに対し、男性の41%、女性については69%もの人が「トイレが男女別」と回答しています。
「阪急前店」は洋菓子ブランドの「セセシオン」とコラボしたケーキが人気なことから、女性比率がおよそ7割。人目を気にせず化粧直しなどをできるようにした今回のレイアウト変更は客層にマッチした効果的なリニューアルといえます。
「同じにしむら珈琲店でも店によって特徴がありますから、全体のコンセプトは大事にしながらも、それぞれに合った取り組みが求められます。例えば、私たちは今回のトイレ改修に当たって、洗面コーナーの照明を少し明るくしています。『化粧直しをするには、もう少し明るさがほしい』という女性スタッフの声を採用してのことです。お客さまの視点に立って、できることはやろうと考えました」
加えて設備面では、男性、女性トイレとも従来の便器にウォシュレットを新たに取り付けています。いまやそれは、店舗のトイレでは当然のものになってきている。時代のニーズに合わせて設備を更新することも重要との判断からです。
実際に1階のトイレの利用が始まって篠原さんが実感していることの一つに「掃除のしやすさ」があると言います。
「今回、『きれい除菌水』を搭載したフチなしの便器を採用したので、汚れが付きにくく助かっています。当店では、閉店前のトイレ掃除に加え、私を含めたスタッフが営業中に随時トイレの点検を行い、乱れや汚れがあればきれいにするようにしています。お客さまが使っていない合間に素早く行う必要があるため、掃除のしやすさは大事なポイントなのです」
そうしてこまめに手入れされた「阪急前店」のトイレの洗面コーナーには、生花が飾られています。「短い時間でも、本物のお花でやすらぎを感じてほしい」。そうした思いから、店内に生けているお花を入れ替えるのに合わせて、週1回トイレのお花も新しくしているとのことです。
競合のお店がひしめく中、お客さまからの支持をいかに集めるか──。最後に改めて聞くと、篠原さんは次のように話してくれました。
「結局は、できることを一つ一つ地道にやるしかありません。お花も造花なら手間は掛かりませんが、それではやっぱり味気ない。手を掛けることで、喜んでくれる人がいるならそれを続けていきたいです。おかげさまで、改修、新設したトイレについてこれまでクレームは聞かれません。日々手入れをしている私たちにとって、『特に気になる点がない』ということが一番の評価です。きれいで快適なトイレを当たり前に使っていただく。そうした日を積み重ねていければと思います」
名 称 | にしむら珈琲店 阪急前店 |
所在地 | 神戸市中央区北長狭通1-2-2 三宮エビスビル1F、B1 |
施 主 | 株式会社にしむらコーヒーサービス |
設 計(改修) | 株式会社戎工務店 |
施 工(改修) | 株式会社戎工務店 |
構造・規模 | 地上8階・地下1階 |
改修工期 | 2021年9月(1階トイレ) |
掃除口付パブリックコンパクト便器・フラッシュタンク式 CFS498BC | ウォシュレットアプリコットP TCF5840 |
水石けん入れ TLK05202J | アンダーカウンター式洗面器 L531 |
音姫(トイレ用擬音装置) YES402R | ベビーシート YKA24S |
可動式手すり はね上げ・ロック付 T112HK7R | 腰掛便器用手すり L型 T112CL10 |
棚付二連紙巻器 YH702 |
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