道の駅 三岳
2000年4月にオープンした「道の駅 三岳」。情報提供施設や駐車場、トイレを長野県が、特産物販売施設などを木曽町が管轄し、両自治体が連携して運営している。周辺に梅園があり、梅の開花シーズンには木曽ダム湖に写る残雪の木曽駒ヶ岳とマッチした素晴らしい景色を観ることができる。
長野県木曽郡木曽町、国道19号から県道20号に入って3㎞ほど。霊峰・御嶽山の玄関口の役割も果たす「道の駅 三岳」のトイレが2022年6月、全面改修によって生まれ変わりました。背景にあるのは長野県の総合5か年計画「しあわせ信州創造プラン2.0」です。
「私たちはこのプランの中で『世界を魅了するしあわせ観光地域づくり』を掲げています。外国人観光客や子育て世代、障がいのある方など、誰もが楽しめる観光地域づくりにあたって、安全、快適なトイレは不可欠。そこで県内の道の駅のトイレリニューアルを順次進めています」
長野県建設部道路管理課の金井勝宏主査はそう説明します。
「道の駅 三岳」は場所柄、通常の観光客のほか、登山客にも多く利用されます。一方、地域で収穫された農産物などの加工施設も併設され、そこで作られる弁当や惣菜は地元の人にも好評です。
「そのため、お子さま連れから高齢者まで、さまざまな方にご利用いただいております」と木曽町三岳支所の野田智彦主査。「開設から20年以上が経ち、町としても時代のニーズに合わせたトイレの改修を希望していました」
お客さまが求めているのは清潔で快適に利用できるトイレ。この実現にあたり、今回トイレの「全面洋式化」を行い、併せて大便器、小便器をすべて壁掛タイプとしました。長野県建設部施設課設備係の藤田将行主任は次のように話します。
「登山客の利用による泥汚れなども日常的に見られる中、清掃性を向上させたい。同時に菌の繁殖を抑えられる乾式清掃への移行も進めたい。そうした狙いがありました。おかげさまで、改修によって清掃の質と効率性は大きく向上したと聞いています」
加えて、感染症対策などの観点から「非接触化」も大事なテーマでした。
「自動水栓や自動水石けん供給栓の採用はもちろん、男性トイレ、女性トイレの入口にあった扉の撤去も行いました。手を洗った後、どこにも触れずにトイレから出たい。そうしたニーズに応えるためです」(藤田さん)
従来の建物を活かしての全面改修は、設計上の工夫がポイントとなりました。和式から洋式にしてもブースの数は減らしたくない。入口の扉を撤去しても人目を気にせず利用できるようにしたい。これらの課題を解決すべく、男性トイレ、女性トイレとも、レイアウトを変更。どうすれば既存の空間を最大限活かせるか、利用者の視線をコントロールできるか──。設計会社と打ち合わせを重ね、また施工中に出たアイデアも柔軟に取り込み、男性トイレでは個室ブースと小便器の場所を逆転させるなど、大幅なレイアウト変更を実施しました。
そしてもう一つ、「道の駅 三岳」の改修では二つのバリアフリートイレも大きなポイントです。もともと同じ仕様であったものを刷新。「最大の特長はそれぞれに役割を持たせたこと」と藤田さんが言うとおり、一方にオストメイトパックを、もう一方に幼児用小便器を設置しました。
「機能分散を図ることで混雑時などにも使いやすくなります。また、これまではいずれの設備もありませんでしたから、トイレのバリアフリー化も大きく進められました」(藤田さん)
野田さんも、「一つのブースに機能を詰め込むと窮屈になってしまいますが、機能分散のおかげでゆったりとしていてとても使いやすい。障がいのある方でも利用しやすい公衆トイレの設置は町の重要課題なので、とてもありがたい」と言います。
「そのほか、管理性を向上するために、乾電池交換が不要な『エコリモコン』や便器内部に詰まった異物の除去作業がしやすい掃除口付きの大便器も採用しました」と藤田さんは説明します。
そして最後に、金井さんは次のように今後の抱負を語りました。
「長野県では『信州まごころトイレ』という制度を設け、ユニバーサルデザインや清掃状況などの基準を満たした観光地の公衆トイレを認定しています。『道の駅 三岳』のトイレの申請に向けて協力し、しっかりその良さをアピールしていきたい。そうした取り組みを道の駅のリピーター増加につなげたいと思います。また、長野県内の全52カ所の道の駅は運営者による交流会を設置するなど、先進的な取り組みを行っています。話し合いの中で、共通のイベントを開催して盛り上げようとの計画も出てきました。道の駅自体が目的地ともなっている今、県も協力してその観光的な価値を高めていきたいと考えています」
いまや道の駅は、地域活性化の拠点であり、重要な雇用創出の場ともなっています。そこに必ずあるトイレの質を高めることは、より多くの人を呼び込むための必須条件。今回のリニューアルがどんな効果をもたらすか、これからが楽しみです。
株式会社環境計画 建築設計室 室長
伊沢善平さん
非接触化やバリアフリー化、清掃性向上、大便器台数の維持など、多くの課題がある改修でしたが、適切な設備の採用やレイアウトの工夫でクリアすることができました。一方で、最近では公衆トイレにも個性が見られる中、温かみのあるトイレをつくることも改修のテーマでした。木目調の明るい壁材を使うことなどで親しみ、温かみのある空間を実現できたと思います。
倉本建設株式会社 代表取締役
倉本幸一さん
今回の改修工事は既存配管の位置を変えることが難しいなど制約もあって大変でしたが、納得のいくトイレを完成させることができました。床や壁に抗菌仕様の素材を使うなど、時代のニーズにもしっかりと応えています。2つあるバリアフリートイレの設備に差を付けるというのも、とてもいいアイデアで、誰にとっても使いやすいトイレになっていると思います。
道の駅 三岳 駅長
大畑 稔さん
「道の駅 三岳」にある農産物などの加工施設「みたけグルメ工房」は、地元の人たちでつくる組合によって運営されています。そこで調理されたおこわやおやき、ジャムなどは組合員の貴重な収入源。今回のトイレのリニューアルによって訪れる人が増えることは、地域の活性化につながります。新しくなったトイレは、道の駅で働くスタッフにも好評です。
名 称 | 道の駅 三岳 公衆便所棟 |
所在地 | 長野県木曽郡木曽町三岳10491-9 |
施 主 | 長野県 |
設 計(改修) | 株式会社環境計画 |
施 工(改修) | 倉本建設株式会社 |
構造・規模 | 木造平屋 延床面積59.62㎡ |
竣工年月 | 2000年3月 |
改修工期 | 2022年2月~6月 |
壁掛大便器セット・フラッシュタンク式 UAXC3C | ウォシュレット アプリコットP TCF5830AUS |
ベビーチェア YKA15S/YKA16S | フィッティングボード YKA41R |
壁掛自動洗浄小便器 UFS900JCS | コンパクト・バリアフリートイレパック |
(オストメイト配慮) UADBK61L1A1ADD2BA | (乳幼児連れ配慮) UADBK81R1A1AND2BA |
ベビーシート YKA25S |
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