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スミルハン・ラディック展 BESTIARY:寓話集

特別対談
■第2展示室(4階)
▲「サーペンタイン・ギャラリー・パヴィリオン2014」(イギリス、ロンドン/2014)© Iwan Baan
ラディック:(サーペンタイン・ギャラリー・パヴィリオンのプロジェクトについて)ロンドンにあるこの敷地はとても素晴らしい場所で、ジュリア・ペイトン・ジョーンズさん(当時のサーペンタイン・ギャラリーのキュレーター)からこの仕事の依頼を受けた時は、本当に驚いた。そのことについては、『エル・クロッキース』には本当に感謝しているよ。このモノグラフのおかげで僕のことを知ってくれたようだし、そして彼女が実際に南米を旅して回って建築家を探し、最終的に僕に声をかけてくれたのだと言っていたから。このプロジェクトは、やはり僕が自分の手で作った模型から始まったんだ。依頼を受ける4年前に作ったものだ。『わがままな大男』の寓話を念頭に置いて、遊びとして作ったものだった。この模型「わがままな大男の城」ができ上がった時は、自分でもその寓話の良い解釈ができたと思ったけれど、それを「建設」しようとはその時は考えていなかった。僕たちは当時、このサーペンタインのプロジェクトに長い時間をかけていて、この案の前にすでに3つの異なるプロジェクトをデザインしていたのだけれど、最終的にはこの模型のおかげで、あのプロジェクトができたんだ。そういう意味ではこれも、プロジェクトのモデルになった模型ということになる。パヴィリオンを実際に建てるために素材を選ぶ時にも、この模型が張り紙でできていたからこそ、あの柔らかいグラスファイバーの素材を選ぶことになった。そして同じことが再び、つまり遊びとして作った模型が実際に建設されてしまう、ということが起こってしまったんだ。しかもロンドンの非常に洗練された場所で、最新の技術を駆使して、ね(笑)。そしてこちらはアレハンドロが作った模型。普段は、プロジェクトが完成した後に模型を作ったりはしないのだけれど、あの建物は、写真の中ではデフォルメされてしまうので、実際に訪れたことのない人には理解しにくいんだ。それでこの時は最後に、プロジェクトのプレゼンテーションのとしてこの模型が作られた。プロジェクトの理解と評価を助けてくれる、とても素晴らしい模型だと思っているよ。
▲「サーペンタイン・ギャラリー・パヴィリオン2014」(イギリス、ロンドン/2014)の模型 © Nacása & Partners Inc.
鈴木:なるほどそれは知らなかった、だけど本当に存在感のある模型だよね。

ラディック:君たちが取材に来たあの時点では、この模型はまだ何の意味も持っていなかったんだよ(笑)。それがたまたまフェルナンド(『エル・クロッキース』編集長)の目に止まって、これは何だということになり、気に入ってくれたから、 写真を撮ることになったんだよね。だけど最初に撮影用に用意された模型リストには入っていなかった。だってこれはプロジェクトではなかったんだから(笑)。

鈴木:そういう意味でも、フラジャイル(はかない)な作品なんだね(笑)。

ラディック:まさにその通りだよ(笑)。

鈴木:それなのに僕たちは、撮影するために「これはここがいいかな、こっちかな」とか言いながら、うっかり雑にこの膜をいろいろ触って動かしてしまったかもしれない(笑)。
▲「家での死」(2015) © Nacása & Partners Inc.
ラディック:「家での死」も同じように、最初にこの紙の模型を作って、その素材を変換して、今はレンガで作っている。あと1ヶ月位でできる予定だ。多数のとても綺麗な部材で構成されている。いくつかはとても壊れやすそうで、持つかどうか分からないけれど、すでに2つでき上がっているから、もう大丈夫だと思う。とても満足しているよ。

鈴木:建築家の君が「持つかどうか分からない」って言うのかい(笑)?

ラディック:いや、そうじゃないんだ。もしこの構造が持たなかったら、別のもので支えればいいと分かっているから、僕は、壊れたらどうしよう、という風には考えないんだ。もしも壊れたら、切ったり、加工したりして使えばいい。そういう意味では、壊れるまでいろいろ試行錯誤してみるつもりでいるよ。一度、エンリック・ミラージェスがチリで講演をした時に、トランスフォーメーションしていくプロジェクトのイメージを見せてくれたんだ。それは、あるプロジェクトを考え続けていると、他のプロジェクトに成長していくことがあるという意味で、僕はその時彼が見せてくれたものにとても影響を受けたよ。

鈴木:そうか、でもそれは彼の話だけでなく、ミラージェスのイメージを見てそんな風に理解した、君の解釈の力というものがまた、すごいと思うよ。

ラディック:ありがとう。

鈴木:こちらこそ楽しい話をありがとう。
▲対談の様子(左からスミルハン・ラディック氏、鈴木久雄氏、アレハンドロ・リューエル氏)
出演者プロフィール

鈴木久雄(すずき ひさお)
1957年山形県生まれ。1979年東京綜合写真専門学校を卒業し、ミノワスタジオに入社。1981年に同スタジオを退社し単身で渡欧。1982年よりスペイン・バルセロナに在住。1984年鈴木久雄写真事務所を設立。1992年バルセロナ五輪のため磯崎新アトリエが設計した「パラウ・サンジョルディ」の撮影を1984年より手掛け、1986年マドリッドの建築雑誌『エル・クロッキース(EL CROQUIS)』の専属カメラマンとなる。同誌の他に『カタルーニャ音楽堂』(1995年、Editorial Menges/ドイツ)、『イグアラーダ墓地』(1996年、Phaidon Press/英国)をはじめ多数の出版物、展覧会にて作品を発表。2012年よりRCR建築事務所主催ワークショップLAB-Aのオーディオビジュアル 写真コースの講師を担当。2015年バルセロナのパラウ・ロベルト美術館で行われたRCR展で一連の映像作品を展示し、同年FICARQ建築映像フェスティバルにて最優秀映像賞を受賞。2015年「Casa Horizonte」(RCR設計)を撮影した写真作品がニューヨーク現代美術館MoMAのコレクションに収蔵される。
TOTO出版関連書籍
著者=スミルハン・ラディック