出展者について
寓話集
よく描けた挿画には、描き手の脳裏をかすめた確信らしきものが、必ず現れているように思う。どんな方法で描かれていようと――ドローイングであれ、模型であれ、写真であれ――その絵は周囲に啓蒙的な影響を与える。描くことで人を啓蒙し、まったくの無の状態から虚構を構築する。よく描けた挿画には、必ずその対象物の記憶が充満しているものだ。
「寓話集」と題した本展は、私の作品に現れたこうした確信の瞬間の寄せ集めである。ちなみに本来のBESTIARY(中世の動物寓話集)は、空想上の獣や怪物、つまり現実世界では目にすることのできない生き物を網羅した、図鑑のようなものであった。
このたび私たちの「寓話集」に収められたのは、一群の木製模型である。過去6年間に私たちの設計したプロジェクトを、建築家アレハンドロ・リューエルが模型に仕立ててくれた。
展示模型のなかには、私の気に入りの文章の挿画から生まれたものもある。これらはあくまで解釈の一環として制作した模型なので、その背景にはこれといった根拠もなければ、用途も想定されていない。数年後に実現に至った、あるいは実現に向けて動き出したプロジェクトもあるが、それは単に巡り合わせが良かっただけのことだ。
模型は単に一つの解釈、検討中の未定の形態にすぎない。なかにはプロジェクトの出発点となった模型もあれば、施主への最終プレゼンテーションに用いられた模型もある。プロジェクトを進める間は首尾一貫して、これらの木製模型並みの精度と整然さを心掛けた。つまり私たちにとってはどの模型も、まさしくその建築プロジェクトに対する確信の現れなのである。
スミルハン・ラディック