Tokyu Plaza Ginza
銀座の新たなランドマーク
伝統と革新があふれ出す「光の器」
取材・文/大山直美
写真/川辺明伸(ポートレイトを除く)
数寄屋橋交差点より見る。
今年3月31日、銀座・数寄屋橋交差点角に大型商業施設「東急プラザ銀座」がオープンした。地下2階~地上11階の全13フロアにおよぶ売り場には、計125店舗が出店。6階の巨大な吹抜け空間や屋上テラスなど、共用スペースも充実している。事業主体は東急不動産、建築設計は日建設計が手がけた。
伝統と革新が共存する街・銀座にふさわしい施設を目指す東急不動産との話し合いを重ねるなか、日建設計が導き出した建築のコンセプトは「光の器」。そこから、江戸切子をモチーフにした現在の外観が生まれたという。
東急不動産の岩城崇志さんによれば、もともと建築本体の設計は計画当初から日建設計に決まっていたが、じつは外装に関しては、街のランドマークにふさわしいデザインが求められるため、複数のデザイン会社に参加してもらい、コンペを実施したとのこと。その結果、数社のうちの1社として参加していた日建設計の案が選ばれ、晴れて箱の外形も中身も同社が設計することになったのだそうだ。
ガラスのカーテンウォールが街の表情を映し出す
入社まもない頃からこのプロジェクトにかかわってきたという日建設計の畑野了さんは、外観のデザインについてこう語る。
「通常、商業施設は商品の日焼けを嫌ったり、各店舗が内側に独自の世界をつくりたい想いもあって、窓が少ないのですが、われわれはあえて全部ガラスカーテンウォールにすることにこだわりました。光り輝く器というイメージだけでなく、内側のにぎわいを外に伝え、街の風景が映り込むといった、街との関係性を生み出し、都市の風景の一部になるような建築をつくりたかったからです」
確かに、建物を外から眺めると、時間帯によって、内部が透けたり、あかりが漏れ出したりと、多彩な表情を見せてくれる。また、ガラスの壁面が立体的に入り組んでいるため、映り込んだ街の風景は抽象化され、雑多な印象が薄まって見える。
「銀座は地区計画で建物の高さが制限されているため、どのビルも限られた敷地いっぱいに建てざるをえない。そのようななかで圧迫感がなく、かつ存在感があるという、バランスがとれた建物に仕上がったと思います」と岩城さんも満足げだ。
階ごとに異なるデザインで自分に似合うトイレを
さて、各階の水まわりはどんな空間なのか。6つのフロアのトイレを見学してまわった。まず驚くのが、階ごとにトイレの位置が異なる点だ。岩城さんはこう振り返る。
「売り場はもちろんですが、銀座でゆったりお買い物を楽しんでいただくためには通路にも余裕をもたせ、大勢の店員さんの裏動線も確保しなければならない。残りの限られた容積で、どこにどれぐらいの広さのトイレをつくればいいか、ずいぶん悩みましたね」
最終的には、テナントが店舗内にトイレを設ける階にはパブリックトイレは設けず、6階は人が集まるラウンジのそばに、飲食店街はどこからもアクセスしやすい中ほどにといった具合に、各階のフロア構成と客の流れに合わせて、位置を決めていったという。「配管のことを考えたら上下同じ位置にあるほうが楽に決まっていますから、かなり施工者泣かせな現場でしたね」と岩城さんは苦笑する。
プランや内装も、フロアによってバラエティに富んでいる。内装は各階売り場のテーマに沿って変化をつけており、たとえば5階は木のぬくもりが感じられる空間なのに対し、6階は黒と白を基調にしたモダンな和の空間。さらに女子トイレの奥の壁面には、滋賀の工房に特注したという光り輝くガラス壁を設けるなど、演出効果も満点だ。
洗面カウンターのデザインも、個性派揃いで、2方向から使えるアイランドカウンターもあれば、高さを変えたベッセル式の洗面器を並べたコーナーもある。地下2階の女子トイレに至っては、3つの洗面器や鏡のデザインがすべて異なるという徹底ぶり。これについて、畑野さんは次のように語る。
「公共性のある商業施設では、同一のものをずらっと並べることがユニバーサルデザインであるかのようにとらえられがちですが、僕は個人的に、誰にでも使いやすい洗面器はないと思うんです。身長も違えば好みも違うので。それより、デザインに多様性をもたせ、そのなかから自分にフィットするものを選べるほうが満足度は高いのではないか。そういう思想に基づいて全体を設計したつもりです」
使いやすさや動線を徹底した
動線計画も綿密に練られている。とくに、女子トイレはほとんど洗面コーナーとパウダーコーナーを分離させているので、手だけをさっと洗いたい人、ゆっくり化粧直しをしたい人の住み分けがしやすい。また、小便器コーナーが奥まった位置にある男子トイレが多いが、これについては岩城さんいわく「あれは混雑した際に人が並ぶことを想定した結果です。小便器コーナーが手前にあると、行列が通路にまでできて、女子トイレ前を塞ぎかねません。すべてトイレ内だけでなく、通路まで含めたプランを考えました」
限られた広さの中で必要な器具数を確保するため、ブースの形状もまちまちで、一般的な長方形ではなく、正方形の平面も少なくない。「奥行きがさほど深くなくても、横幅があるほうがゆったり感じられることもあります。スペースから割り出したサイズではありますが、新鮮みもねらいました」と畑野さん。
おふたりの話を聞けば聞くほど、広さや時間など、あらゆる制限と闘いながら、使う側にとって快適なトイレをつくるために粘り強く検討を重ねたことが伝わってくる。
「広さも外形も決まっているのに、たび重なる設計変更や追加注文があり、究極のパズルだったと思います。それでも無理やり詰め込んで使いづらくならないように、デザインも機能もほどよくつくり込んでいただけたのは非常によかったです」と岩城さん。
ちなみに、女子トイレの洗面コーナーとパウダーコーナーの分離など、プランや仕様については、社内や外部の女性スタッフに意見を求め、かなり反映させたとのこと。「そういう意味では、われわれふたりがメインで考えたとはいえ、大勢の意見を取り入れながら、みんなでつくり上げたトイレです」。そう岩城さんはしめくくってくれた。
Iwaki Takashi
東急不動産ウェルネス事業ユニット
事業戦略部業務推進グループ
Hatano Ryo
日建設計
設計部門 設計部