もとはホテルマンだった中村さんが住宅業界に転じたのは20代後半。知り合いの工務店の社長に誘われたのがきっかけだったそうだが、もともと住宅や建築に興味があったのだろう。まもなく、工務店の仕事にとどまらず、仲間と勉強会を立ち上げて、新潟の気候に合った家について模索を続ける。そうした活動のなかで出会ったのが自然素材であり、建築家の吉田桂二氏だった。「吉田先生の『広がり間取り』は、今もナレッジライフの基本」と語るように、その頃の出会いは現在のナレッジライフの大枠を決めるほど大きな影響を中村さんに与えた。
　やがて勉強会の縁で福島の工務店に移った中村さんはそこでおよそ7年、自然素材の家づくりを手がけ、再び勉強会の縁によってナレッジライフの前身・大幸ホームに入社。ふるさとの新潟で会社を託され、自らが考える家づくりにまい進することになる。

　大幸ホームは、1975年に現・ナレッジライフ会長の田村征司氏が創業した。一般的な家づくりを幅広く手がけていたが、これからは何か特徴が必要と、中村さんの入社とともに少しずつ自然素材の家づくりにシフトする。そして2005年、創立30周年を機に社名をナレッジライフに変更。ナレッジは知識、知恵の意で、知恵のある暮らし、価値ある暮らしを掲げる。ちなみに「Pureの家」のpureは、むろん素材の特質からきているものだが、中村さんによると「素材から発展して、つくり手であるわれわれ自身がピュアでいよう、という気持ちを表したもの」でもあるという。
　ナレッジライフが提供する新築住宅は、国産材や健康建材にこだわり、また新潟の気候に合わせた工法を採用し、家族のコミュニケーションを大切にする「広がり間取り」で構成される。この仕様で年間60～70棟。新築以外に、既存家屋のリフォーム・リノベーションを別会社「再生良家」で手がける。
「新築とリノベーションなどの境目はどんどんなくなってきています。ですから、家を建てようとかリフォームしようと決断する以前でも、すてきな空間で暮らしたいと思ったときに『行ってみよう』と思える会社にしたい」
　中村さんの話を聞いていると、誇れるハードをもちながらも、ソフトの話が多いようだ。OMソーラーの導入など、建築的な工夫を続けつつも「似たような家はどこでもつくれるでしょう」とそれほどのこだわりを見せない。これからやっていきたいこと、の問いには「食を絡めていきたいんです」と驚くような答えが返ってきた。新潟は、暑さ寒さがきびしい分、食の王国でもあるが、その本物の豊かな食材を届けたり、食べてもらったりしたいのだという。その一環として、モデルハウス「Lounge DESEN」のキッチンにシェフを招いてランチを振る舞ったり、近所の農家がつくる無農薬野菜で料理をしたり、といった活動も少しずつ行っている。ナレッジライフが目指すのは、「いい家をつくる」ことだけではなく、「豊かな暮らしがしたい」と思った人に道筋を示すこと。中村さんの目は、建築の先を見ている。