特集/ケーススタディ

華奢な軸組に自立する箱を挿入する

 貝塚の市街、登録有形文化財に指定されているものもある江戸時代の民家が散在する町並みを抜けていき、現地にたどり着く。外形は棟が低く、いかにも平屋の長屋然としている。しかし屋根はコロニアル葺き、白い漆喰塗りの壁には大きなガラス窓があるので、築100年あまりの建物には見えない。古くもあり新しくもあるような、不思議に穏やかなたたずまい。
 不安よりは好奇心が上まわる状態で室内に足を踏み入れる。するとどうだろう。そこには怖れていた緊張も軋轢も、かけらほどにも見当たらない。あるのは細やかなスケール感に支えられた普通の暮らしの場であった。
 既存の壁や天井、屋根はすべて取り払われ、木の軸組のみが残されている。数箇所の目立たない修理・補強がなされているが、撤去された軸組の部材はない。黒光りする柱や梁はこれ以上ないほどの細さ。これで屋根には瓦がのっていたかと思えば、華奢な軸組の力学的な合理性に驚くばかり。とはいえこの軸組をいくら補強したとしても高い耐震性を期待することはできない。信頼性にも欠けるにちがいない。それに柱のピッチに合わせてプランニングすると、現代の住まいとしては窮屈で不自由である。そこで自立し、耐震強度も高い箱を複数挿入し、既存の軸組はそれらによって補強されるという考え方が採用された。
 箱の壁面と天井面は2×4材の両面に合板を接着したサンドイッチパネルでつくられている。このうえなく強固。断熱材がはさまれているので気密性と断熱性も万全。リビングとダイニングの箱の床面には床暖房が設けられていることもあり、住まいとしての快適な環境性能への配慮は十分に行き届いている。

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