ただし、すみずみまで一気に見渡せると、空間を小さく感じてしまう。そのため、小川さんは空間の真ん中に視線を遮る箱を配置した。引き出し式のカウンターテーブル、その下に仕込まれているキッチンカウンター、そしてトイレや収納、排気設備などで構成されるコアユニットである。
この規模のワンルーム住戸でコアをアイランドのように壁から離して置くことは、スペースの有効活用の観点からめったにない。しかしここでは両側のコンクリート壁に面しては、通路と、棚などを置くことのできるスペースを確保し、あえてコアを真ん中に置いた。コアの壁面が視界に入ることで、空間の隅が全部見えることは少ない。すると人は見えないところを確かめようと意識し、空間に動きと奥行きが生まれるというのである。
この空間全体は、芯々で間口が2.7m、長手方向には10.8mある。床面積29.17㎡。そして、居住スペースでの天井高は2.7m。1辺2.7mのキューブが4つ、細長く並ぶ格好である。
そのうちのひとつが、玄関側で60cmの段差がつけられたスペース。この段差を利用して床下に設備配管などを納め、浴室・洗面室・トイレのユーティリティスペースを配している。コアを挟んで玄関スペースと反対側には、床面に水が張られたスペースが見える。最初このスペースを遠くから見ていたときには、居室スペースとのあいだにはガラス板があるものと感じられた。しかし近づいてみると、そこに仕切りは何もない。浴槽が埋め込まれた個所の両側はオープンで、シャワーを浴びるときなど必要なときには天井面に設置されたロールスクリーンを下げて水跳ねを防止する。浴槽からオーバーフローする湯水は、四方から流れ落ちて排水される仕組みとなっている。
「縁なしの美しい水面をつくり、極小の空間の中で快適さを追求した」と語る小川さん。開放感の高い浴槽に浸かると、全体の空間を感じながら入浴できる。
視線が自由に行き交うワンルーム空間の中で、真ん中に設置されたコアユニットのボリュームと、床の60cmの段差は目に見えない結界をつくり出す。性格の異なるスペース同士をゆるやかに分ける、自由度の高い空間が視線の操作により生まれていた。